
デザイン専門サイトDesign Weekは1986年に創刊された雑誌『Design Week』が起源です。同サイトがすぐれたデザインを表彰するDesign Week賞は2021年で31年目を迎えました。ブランド・キャンペーン、アイデンティティ・デザイン、印刷物、ポスターなどさまざまな部門ごとに賞が贈られますが、その中からパッケージのグラフィックデザイン部門の候補作品をいくつかご紹介します。
いずれも、比較的小規模なブランドが競争の激しい市場に切り込むというシチュエーションが共通しています。競合との差別化を図るために、ブランドストーリーをどのようにパッケージデザインに落とし込むかの参考となるでしょう。
デザイン賞の審査基準は「美しさ」だけでなく「一貫性」と「実効性」を含む
パッケージデザイン賞の候補作品を分析すると、審査基準が「見た目の美しさ」だけではないことがわかります。多くのデザイン賞では、「ブランドストーリーとの一貫性」「市場での実際の成果(売上やシェアの変化)」「サステナビリティへの配慮」が評価軸に含まれています。
これは、日常の制作にもそのまま応用できる品質基準です。「このパッケージはブランドの理念と一致しているか」「このデザインは実際に売り場で機能するか」「環境への配慮は設計に組み込まれているか」。この3つの問いをデザインの完成時に自問するだけで、デザインの品質が一段上がります。
デザイン賞を目指す必要はありませんが、賞の審査基準を「自分のデザインの品質チェックリスト」として借用するのは、非常に実用的なアプローチです。
マイクロファイバークロスのシンプルで力強いリブランド例
And the #DWAwards21's winner of the 2d packaging – graphics category is… E-Cloth, @pearlfisherlive, E-Cloth! Congratulations.https://t.co/CeAv0lLaEq pic.twitter.com/o4dU3kQB5w
— Design Week (@Design_Week) June 29, 2021
英国のマイクロファイバークロスのブランド「E-Cloth」が2021年のDesign Week賞のパッケージの平面デザイン部門で表彰されました。
水だけできれいに汚れをふきとれることが最大の特徴であるE-Clothは、25年前に生まれました。従来のパッケージでは、その特徴をアピールするために、水滴のイラストが大きくレイアウトされています。また、化学薬品を使用していないこと、雑菌を99%除菌できることなどがシール状にデザイン処理されています。パッケージには小さな窓が開けられていて、クロスそのものを触って確かめることも可能。製品パッケージのグラフィックとしては至って正統派と言えるものです。
しかしながら、市場は競合ひしめく飽和状態となっています。E-Clothのリブランディングを請け負ったブランドデザイン会社Pearlfisher社は、新しい世代の消費者に向けて「エモーショナル」なアプローチを取ることにしました。シンプルかつ力強いデザインによって、これまでとは異なるポジショニングをねらいます。
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そこで生み出されたのが、大文字「E」をかたどったミニマルなパッケージです。EはもちろんE-Clothからとられたものですが、同時に、Easy(簡単)、Ecological(エコ)、Economical(経済的)、Efficient(効率的)、Effortless(手軽)、Environmental(環境にやさしい)、Essential(必須)といったプロダクトの特徴の象徴にもなっています。
新しいパッケージの印刷面は、基本的にテキストだけで構成されたミニマルデザインとなっています。メインビジュアルだった水滴は、デボス加工(空押し)で、さりげなく上品に表現されています。除菌99%という特徴も水滴の中にまとめられました。アイテムごとに色とプロポーションは異なりますが、「E」を型どったフォーマットによって、ラインナップ全体でカラフルな統一感が作り出されています。
従来型のデザインに比べると、商品とパッケージがひとつのかたまりに一体化していて、強い存在感を示しています。あたかもE-Clothという新しいカテゴリーがあるかのような印象です。従来型デザインのパッケージを使っている競合商品は、E-Clothの前では、その他大勢組としてかすんでしまうでしょう。
このE-Clothのパッケージデザインは、伝統ある英国のD&AD賞でもリブランド部門で表彰されています。
ミツバチの世界を再現したパッケージデザイン
ここからは、Design Week賞候補としてノミネートされたデザインを紹介します。
まずは、英国ロンドンで単花蜜を手作りしている「B’s Bees」です。養蜂家の頭文字Bとミツバチ「bee」の発音が同じことから、文字「B」を核としてさまざまにアイデアが広げられています。
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びっしりとBを並べてあるのはミツバチの巣のイメージです。ミツバチのひとつの群れには、女王蜂は1匹しかいません。何千何万匹の働き蜂の中から女王蜂を見つけ出すことも養蜂家の重要な仕事のひとつであるということをヒントにして、ラベルを埋めつくす「B」の中に「B’s Bees」というブランド名を紛れ込ませました。
B’s Beesのハチミツは職人による少量生産です。パッケージデザインを手がけたStudio Meanは、製品のクオリティの高さを表現するために、紙と印刷にもこだわりました。花の蜜と花粉の色であるとともに、「ホンモノ」であることを感じさせる質感から、G.F Smith社のファインペーパー「Colorplan」の「Sorbet Yellow(シャーベットイエロー)」が選ばれています。ラベルの文字は活版で印刷されました。
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ミツバチに関するトリビアを載せたミニブックレットや、ハチミツを使ったカクテルのレシピパンフレットなども作られました。これらの印刷物も、Colorplan Sorbet Yellowで揃えられています。オリジナルカクテルの名前は、オールディーズの曲名やミュージシャンの名前の「be」や「B」を「B’」に代えて付けられました。また、ネーミングのヒントになった曲のプレイリストをSpotifyで提供するという遊び心にもくすぐられます。
「体験」としてのパッケージデザイン
箱を開け、中身を取り出すまでの一連の動作に「発見の喜び」を組み込むアプローチは、近年のパッケージデザインにおける大きな潮流です。六角形のハニカム構造を模した形状や、開けた瞬間にふわりと広がる花の香りなど、視覚だけでなく触覚や嗅覚を刺激する仕掛けは、ただの商品購入を「特別な体験」へと昇華させます。ユーザーはその体験をSNSでシェアしたくなり、結果としてブランドの強力なファンを獲得することに繋がります。
ななめ45度に揃えられたグラフィティ的パッケージデザイン
英国の「Cloak+Dagger」は、競合がひしめくクラフトビール市場で、意欲的な若者3人が2017年に立ち上げたブランドです。彼らの熱量の高さは、公式サイトの「about」の見出しに「ビールマニア(enthusiasts)」と掲げているところからもうかがえます。いわゆるビールの「エンスー」というわけです。
彼らは、ビール造りからデザイン、販売、SNSでの発信まで自分たちで手がけています。Cloak+Daggerのメンバーのひとり、Leigh Pearce氏は、イラストレーターでデザイナーでもあります。そして、Cloak+Daggerのブランディングをおこなっているのは、Pearce氏が別のアニメーターと共同経営しているデザインスタジオLollyです。
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Cloak+Daggerブランドのどこか悪ぶった感じのトーンはPearce氏の趣味が大きく影響しています。彼は、80〜90年代のポップカルチャーからおおいにインスピレーションを得ています。それが、ビール缶のデザインにグラフィティやヒップホップ的世界が広がっている理由です。
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ビールの名前は、ヒップホップ的に韻(ライム)を踏んでいたり、おもしろいことば遊びになっています。そしてその名前をポップなイラストで表現したものがパッケージとなっています。ミュージシャンやラジカセから宇宙人、得体の知れない抽象的なビジュアルまで多彩です。「ブッとんだ」感じのパッケージデザインですが、それぞれのカラーパレットは黒・白プラス最大2色までに限られいます。そして、すべてのイラストが、垂直、水平、斜め45度のグリッドに沿って描かれていて、ビールのラインナップ全体での統一感が保たれています。
ちなみに、「Cloak +Dagger」は、「マントと短剣(cloak and dagger)」というフレーズをブランド名にしてものです。この表現は、スパイ小説やミステリーを指していたり、秘密の行いを意味したりします。
店頭での「棚割り」を制する視覚ノイズの排除
スーパーや専門店の限られた陳列棚の中で、競合製品に埋もれないためには強烈な「シェルフインパクト」が必要です。この事例のように、あえて斜め45度にテキストを配置したり、極端に太いタイポグラフィを用いたりすることで、周囲の同調したデザインから一気に浮き上がり、消費者の眼球運動を強制的に止めることができます。既存のルールを破壊するストリート的なアプローチは、新参ブランドが市場に食い込むための強力な武器となります。
タフで美しいジャケットブランドのタフで美しいパッケージデザイン
メジャーブランドやファストファッションブランドの製品は、必ずしも期待どおりのクオリティには仕上がっていない、とひとりの男性がたち上げたブランドが「Frahm」です。自然が厳しいと同時に美しいように(tough and beautiful)、丈夫で美しい(tough and beautiful)全天候型ジャケットを男性向けに提供しています。
環境への負荷に配慮し、無駄を少しでも減らすために、オンラインでプリオーダー制としています。また、創業者本人の体験も踏まえ、売り上げの一部がメンタルヘルスの慈善団体「Mind(マインド)」に寄附されます。
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ブランディングを手がけたSupple Studioは、Frahmのコンセプトや製品の特徴を英国に生息する甲虫類でシンボライズしました。素朴な無地のカートンには、クワガタムシやカナブンの美しいクローズアップ写真が大きくレイアウトされています。消費者はカートンを見て触った瞬間に、Frahmの世界を実感し、注文してよかったと思うのではないでしょうか。
Supple Studioの公式サイトでは、同スタジオのポートフォリオが動画で紹介されています。紹介されている制作事例もそのプレゼンテーションの仕方もアイデアにあふれていて刺激的です。
サステナビリティとブランドアイデンティティの融合
現代の世界的デザイン賞を語る上で欠かせないのが「環境への配慮」です。しかし、単に再生紙や生分解性プラスチックを使うだけでは賞賛の対象にはなりません。重要なのは、そのエコフレンドリーな素材選びが、ブランドの哲学と完全にリンクしていることです。「環境に優しいからチープで脆い」のではなく、「地球を守るために最も強靭で無駄のない素材を選んだ」という必然性がデザインを通して伝わる時、ブランドストーリーは消費者にとって圧倒的な説得力を持つ真実となるのです。
【参考資料】
・2D packaging – graphics | Design Week (https://www.designweek.co.uk/awards-2021-results-2d-packaging-graphics/)
・Design, Packaging & Branding of E-Cloth – Pearlfisher (https://www.pearlfisher.com/work/e-cloth/)
・E-Cloth | Chemical-Free Cleaning with Microfiber Cloths and Mops (https://uk.e-cloth.com)
・B’s Bees (https://www.bsbees.uk/)
・B’s Bees on Packaging of the World – Creative Package Design Gallery (https://www.packagingoftheworld.com/2020/10/bs-bees.html)
・Cloak + Dagger (https://www.cloakanddaggerbrewing.com/)
・THE BEER — Cloak + Dagger (https://www.cloakanddaggerbrewing.com/the-beer)
・CLOAK + DAGGER – Lolly Studio (https://lollystudio.co.uk/portfolio/cloakanddagger/)
・OUR NEW PACKAGING & ICONS – BY A CUSTOMER! – FRAHM Jacket (https://frahmjacket.com/blogs/blogs-podcasts/our-new-packaging-icons-by-a-customer)
・Flexible, resilient and nimble | Supple Studio (https://supplestudio.com/)
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