クリエイティブディレクションとは
デザイナー・アートディレクター・クリエイティブディレクターは、デザインや広告制作に関わる仕事ではよく耳にする肩書きです。明確な定義がないだけに曖昧な認識になりがちです。今回は、そんな肩書き(特にクリエイティブディレクター)についてDan Mall 氏の記事を紹介したいと思います。許可をいただき、翻訳・掲載しています。(Thank you, Dan Mall !)
Dan Mall氏はアメリカのフィラデルフィアを拠点に、クリエイティブディレクター&アドバイザーとして活躍されています。クリエイティブエージェンシーであるSuperFriendlyの創設者&ディレクターとしても知られています。
以下翻訳内容です。
3年前、「アートディレクションとデザインの違い」という記事を書きました。そのコメント欄で最も多かった意見が、クリエイティブディレクションを含む追跡記事を書いてほしいというものでした。今回がその記事です。学者ぶっている私たちにはピッタリの議論となるでしょう。毎日使っている用語の意味を定義しなおすのが好きですからね。アンディー・ステファノビッチ氏は「言葉が世界を作る」と言いましたが、その通りです。注意:以下知ったかぶり
クリエイティブディレクションとは何か
クリエイティブディレクションは分離するのも定義するのも難しい言葉です。クリエイティブディレクションとアートディレクションとデザインは、それぞれ重複している部分が多いですから、これらのワードも区別しないで使われることが多いのです。アートディレクターを募集していた友人が、実はクリエイティブディレクターを募集しているつもりだったことがありました。
クリエイティブディレクターという肩書を背負っている人達はもちろん、彼らのボスでさえも、それがどんな職業なのか理解していません。
まず原則を定義しましょう。すなわち、クリエイティブディレクターが何なのかについて話す前にクリエイティブディレクションとは何かについて話します。なぜこれが重要なのか、すぐにわかりますよ。
クリエイティブディレクションは、アートディレクションとデザインが「戦略」で融合する所の境界線に存在します。それぞれの用語の定義を手短にしましょう。
・アートディレクション:作品の出来の直観的な奥深さ。言い換えると、ウェブサイトやアプリ、デザインの作品などを見たときにどのような気持ちになるということです。通常、エレガント、みすぼらしい、レトロなどの感覚的な言葉で説明されます。
・デザイン:作品の物理的または意味合いでのあり方。「デザインは主観的だ」と言った人は間違っていますね。良いデザインは精密さで判断されます。ヘッドラインはカーニングされているか?ベースラインがきちんと揃っているか?色は互いに合っているか?画素数が媒体にとって低すぎたりしていないか?デザイン学校で教わるグラフィックデザインの原則に沿っていない作品は、出来の悪い作品と言えます。
・戦略:特定の目標を達成するための方法。アメフトチームの目標は勝つことですが、具体的にはゴールを相手チームより多く決めることです。こちらのランニングバックが速くて相手チームのディフェンスが弱ければ、戦略(すなわち勝利のための手段)はボールを運ぶことです。こちらのクオーターバックが強く、相手チームのセカンダリーが弱いなら、あなたの戦略はボールをパスすることです。戦略はその状況により変わります。相手、天候、怪我など。
デジタルの世界では、もしあなたの目標が退職年金基金をより多く販売することなら、年齢層の高い市民をターゲットにするべきで、Facebookの広告を活用することではありません。
クリエイティブディレクションの定義の話に戻りましょう。アートディレクションとデザインが「戦略」で融合する所の境界線。良いクリエイティブディレクションを行うための第一の考えは、アートディレクションとデザインが常にクライアントの土台となっているかどうかです。もしこの二つが壊れてしまうと(それ以外のものがいくら素晴らしくても)それは出来の悪いクリエイティブディレクションです。
素晴らしい戦略とアートディレクションがあっても、デザインが適切でなければそれは出来の悪いクリエイティブディレクションです。
適切なアートディレクションと美しいデザインがあっても、戦略が不安定ならそれは出来の悪いクリエイティブディレクションです。
私のお気に入りの素晴らしいクリエイティブディレクションの一つはWieden+Kennedyが手掛けたオールドスパイスの「The Man Your Man Could Smell Like」キャンペーンです。このプロジェクトやチームについての知識は一切ありませんが、私の見たものからお話したいと思います。
・目標:ボディウォッシュの販売促進。
・戦略:同カテゴリーで誰もなしたことがない(あるいは成功していない)ため、敢えて男性と女性をターゲットに。
・アートディレクション:「皆の家のシャワー」をイメージしたセットを作り、それをファンタジーの世界へ変貌させる。
・デザイン:ニュートラルなシャワーカーテン、平凡なシャワータイルなどを使用。
・クリエイティブディレクション:これらのものが全部上手くまとまるようにする。
JavaScriptを書くことに集中しすぎて、そのウェブサイト自体の目的を忘れてしまったことはありませんか?もしくは、(イラストレーターでポスターを作製しているときに)ベジエ曲線を完璧にしようと集中するあまり、募金の大切さを忘れてしまったことは?
クリエイティブディレクションでは全体像と細部の両方が大事になります。もっと具体的に言えば、細部しか見えない人たちが全体像を見ることができるようにするが大事で、その逆もまた然りです。
クリエイティブディレクターの役目
クリエイティブディレクションが何かがわかったので、クリエイティブディレクターの役目について話しましょう。クリエイティブディレクターがクリエイティブディレクションをするということは明らかに見えますが、必ずしもそうではありません。デザイナーをクリエイティブディレクターに昇格させる企業はたくさんあります。クリエイティブディレクションの経験やスキルに関係なく、アートディレクターからクリエイティブディレクターへ昇格します。
ややこしいことに、アートディレクターやデザイナーは時折クリエイティブディレクションの仕事をします。私もデザイナーとして、ひどいクリエイティブディレクションをしたことがあります。また、アートディレクターがクリエイティブディレクターより良いクリエイティブディレクションをしたプロジェクトもありました。だいぶ混乱してきましたか?
Big Spaceship(Dan 氏がデザインディレクターを務める広告代理店)での仕事で一番気に入っていることは、クリエイティブディレクターが居ないことです。さらに、その理由がとても重要です。誰の肩書にも「クリエイティブ」がついていないのです。「クリエイティブ」な人間は誰もいないし、「クリエイティブ」な人間をこちらから送ることもないのです。そこの誰もがクリエイティブにならなければならなかったのです。自分がクリエイティブではないと思う人は、そこではやっていけないでしょう。
これと似た考えの話ですが、クリエイティブディレクターの文字通りの定義は「クリエイティブをディレクション(監督)する」人ということになります。しかし、今SuperFrienly(Dan 氏が創設したクリエイティブエージェンシー)における本来のクリエイティブディレクターの位置にいる私には、責任が少し違って見えます。クリエイティブを監督するというよりは、何がクリエイト(制作)されているかを監督する人として捉えています。そうすると、クリエイティブディレクターという肩書がなくても、その役目を果たしている人間が常にいるということになります。品質をチェックしている人は誰なのか?プロデューサーの時もあります。時にはデベロッパーやライターの時だってあります。クリエイティブディレクターは誰にでもできるということが分かってきたでしょうか。
クリエイティブディレクターがどの分野の人間でも、プロジェクトにかかわる全て分野において均等に質を大事にしなければなりません。
デザイン出身のクリエイティブディレクターがデザインの価値のみ理解していて、デベロッパーが仕事をこなしているかどうかが理解できない場合、それは出来の悪いクリエイティブディレクションです。
素晴らしいクリエイティブディレクターは、何が制作されているのかをそれぞれの分野において理解し、最高の質のプロジェクトを達成するためにプロジェクトメンバーを後押しできる人です。素晴らしいクリエイティブディレクターは「何でも屋」であり「全てできる人」なのです。
クリエイティブディレクターはメンタリング、チーム育成の他、プロジェクトごとのビジョンを見据えたり、前向きなカルチャーを築いたり、様々な責任を背負う役目です。これらは重要であり、良きリーダーの素質です。クリエイティブディレクターはリーダーであるため、これらのことを考慮する必要があります。しかし、クリエイティブディレクションに直接関係なくても「ディレクター」や「VP」「最高」「主任」などの肩書がある人達は皆そうするべきです。(アートディレクターとクリエイティブディレクターの区別が難しいことがわかっていただけたと思います。どちらもディレクターですが、役目の責任までは把握されていないことが多いのです)
良きクリエイティブディレクターは全てに答えを見出しますが、それは周りより賢いからではなく、周りより先に可能性のあるすべてのシナリオを考慮しているからなのです。クリエイティブディレクターと共にプロジェクトをするとき、難しい選択肢を前に賢い決断をしてくれるだろうという期待があります。私がクリエイティブディレクターになるときは、それが私の肩にのしかかる責任です。
Who Has a Seat at the Tableという記事のあとにSeth Godinはこう書いています。
“素晴らしく目立つものを創り、あらゆる限界に挑み(金、技術、ポリシー)、人々が誇りに思い、世界をより良い場所にし、宇宙に痕跡を残すようなものを創造するのが大好きな人は誰でしょう?それが、クリエイティブディレクターなのです。”
クリエイティブディレクターと、クリエイティブディレクションと、私…。
読者の皆さんはどう思いますか?答えが曖昧になりがちなシナリオをいくつか用意しました。
・私は新アプリ/商品のヴィジュアルトーンを決めてくれる人を探しています。
>>アートディレクターが必要です。
・私は自分の広告代理店のデザイナーより高度な物事に気づくことができ、企業のビジネスに良い影響を与えてくれる人を探している広告代理店の経営者です。
>>クリエイティブディレクターが必要です。
・私は自分のデザインスキルを方向付けてくれるメンターを探しているデザイナーです。
>>アートディレクターが必要です。
・私は特定のカラースキームが新商品になぜ合うのか、なぜ顧客にも私にとっても良いのかが知りたいクライアントです。
>>クリエイティブディレクターが必要です。
・私は自分の企業のデザイナーの作品を、最善のタイプフェイスが使われ、グリッドはピクセルに完璧に合っていて、最高のクオリティのものにしてくれる人を探している広告代理店の経営者です。
>>アートディレクターが必要です。
・私は自分のクリティカルシンキングのスキルを上達させ、自分のデザインがクライアントにどう影響するのか教えてくれる人を探しているデザイナーです。
>>クリエイティブディレクターが必要です。
Thank you Dan Mall !
Website http://danielmall.com
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