「フリーフォントは、プロフェッショナル・アイデンティティデザインの一部になれるのでしょうか。」そう投げかけるのは、デザインディレクターのMatt Yow 氏。実は多くの企業ロゴで有名なフォントが使用されています。となると、ブランドの差別化は一体どこで行うのでしょうか?フォントでロゴを作ることに影響力や価値はあるのでしょうか?今回はMatt Yow 氏の記事「タイポグラフィとブランディングと価値」をご紹介したいと思います。
原文 : “Typography, Branding, and Value”
以下翻訳内容です。※翻訳・掲載は記事製作者の許諾を得ています。(Thank you, Matt ! )
タイポグラフィとブランディングと価値
フリーフォントは、プロフェッショナル・アイデンティティデザインの一部になれるのでしょうか。
最近、私は、ある疑問をツイッターで投げかけました。
フリーフォントの立ち位置は分かりますが、プロフェッショナル・アイデンティティデザインはどうあるべきなのか、私には分かりません。
すると、ザッハ・マクネア氏から、貴重な回答を頂きました。彼は、「ツールはデザインのカギではありません。どんなツールでも優れた作業ができます。ホウキは、ペイントブラシにもなります。子供用のクレヨンを使って、美しい文字も描けます。ソール・バス、ポール・ランド、マッシモ・ヴィネッリ達は、私たちが現在使用しているツール(27インチのiMac Retinaやアドビのイラストレーター)など利用することなく、最高の作品を制作しましたよ」と主張されました。
フリーフォントは公開されているものです。しかし、フリーフォントは、正確かつ適切なものでしょうか?フォントはツールと見なすことができますが、フォントは、コーポレートアイデンティティやブランドタイポグラフィと同じものではありません。
しかしヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の米国パビリオンにおいて、ペンタグラムパートナーを務めたナターシャ・ジェンは、ArialとTimes New Romanだけを使ったビジュアル・アイデンティティ・システムをデザインしました。アイデンティティのテーマは「オフィスカルチャー」です。ArialとTimes New Romanはこのテーマにぴったりのフォントです。なんて完璧なソリューションなのでしょう!
最初に頭に浮かんだ疑問を問題提起し、深く追求していなければ、私がこの考えを誇りに思うこともなかったと思います。
似た者同士からの変化
簡単に言うと、アイデンティティのデザインとは、他と区別・差別化することです。具体的には、個人・会社・ブランド・製品・サービス等を競合他社と差別化することです。
競合のやり方とは違う方法を選ぶことが、戦略の基本である。 -マイケル・ポーター
専門的な観点から、Brandon Grotesqueのようなフォントが、Gothamとペアで、ボディーコピーに適した「センスのいいロゴタイプ」として、好まれていることが気になります。さらに上をいくのが、Proxima Nova。現在では、Circular、Brown、Haptik、Walsheim等へとトレンドが移ってきています。Aperçuは一時期流行りましたが、すぐに流行から外れたようですね。
例に挙げたそれぞれのフォントファミリーは、よくできたデザインで、買う価値があります。フォント、デザイナー、ファウンダリーのすべてにおいて優れているため、人気があるのです!ただ、フォントの人気のカギは、文字の構成や品質だけではありません。使用頻度、すなわちいかに多く使用されているかです(ウェブサイトTypeWolf内で、人気フォントの使用回数は by year and all-time を参照し、普及率の低いフォントについては、post をフォローしてください)。新人デザイナーからすると、安全で見慣れたフォントというのは、何の心配もなく選択できます-「Gothamは人気があるし、企業もよく使うフォントだから使用しよう。」となるわけです。
また、ほとんどの人が知っての通り、グーグルは、デスクトップやWEB用にフォントを無料で提供しています。Open Sans、Lato、Source Sans等のフォントです。繰り返しますが、使用頻度が重要なのです。これらのフォントは、至る所で使用されています。グーグルは、フォントの使用状況をオンラインで公開しています。Open Sansは、300億回近くアクセスされ、約2,000万のウェブサイトで使用されています。
グーグルフォントAPIがOpen Sansを提供した回数。Open Sansは19,628,206個ものWEBサイトで使われている(2017年2月20日付)
誰もが使用するようなフォントを使って、際立つ「独創的」なビジュアルブランドなど作り上げられるのでしょうか?すべてのブランドにおいて、フォントのカスタマイズをすべきだとは言いたくありません。そんなこと、合理的でも賢明でもありませんから。たとえそれが可能だとしても、です。ほとんどのブログやWEBテンプレート、WEBサイトは、有名なブランド名が背景にあったり、アイデンティティを際立たせたりする必要があるわけではありませんので、カスタマイズは必要ないと思います。
だからこそ、アイデンティティに価値が見いだされるのです。強い印象のアイデンティティは、会社の大きな価値につながります。強い印象のアイデンティティを作成するにあたって、一目でブランドの目的を主張できるような強い印象のフォントを選択するべきです。果たして、Open Sansは、ブランドの目標や抱負を補強する役割を持っているでしょうか?
同一、もしくは似た者同士
Asana、Dropbox、Google、Lenovo、Logitech、Pandoraなどのテクノロジー企業はすべて、geometric sansのロゴタイプになっています。多くはロゴマーク(シンボル)と組み合わせるため、フォントは主にgeometric sansを使用しています。
小売業のフォントも検討してみましょう。Crate&Barrel、JC Penney、Knoll、Sears、Target、Verizonには、Akzidenz Grotesk、Helvetica、またはneogrotesque sans serifのロゴ体を使用しています。Helveticaも同様に、ブランドの中でよく使われるフォントファミリーです。これらは、他との差別化を図ることの出来る信頼あるロゴタイプなのでしょうか?おそらく大丈夫でしょう。このようなロゴタイプは、ブランドの目的と価値を何で表現しているのでしょうか?その透明性で表現するのでしょうか、それとも強い印象、はたまた精密さなのでしょうか?
Globetouch、TacoBell、Calvin Klein、Lexmark、CB2、Electrolux、99designs、CBS Sports、Mastercard、Vevo、Nordea、Oxygen、Androidはすべて、サンセリフ・セカンダリ・タイポグラフィを用いたgeometric sansを基本としています。
革新は、多くの場合競争の副産物です。デザインの流行は、デザイン産業の流行に沿うようになり、フォントの親しみやすさや使い心地の良さが高い価値を持つようになりました。
ストーリーこそすべて
ザッハ氏は、「Casey Neistat’s Guide to Filmmaking 」を参照して、回答しています。
道具は問題ではありません。ストーリーこそすべてです。カメラはコンテンツ(ストーリー)を捉えます。フォントはストーリを伝える手助けをします。フォントは、声を視覚化し、コンテンツの役割を伝える手助けをするのです。それゆえ、フォントはコンテンツといえます。私はカメラと同じ類の「道具」など信じていません。コンテンツは、声のトーン・気分・気風などで構成されます。選択したフォントは、消費者が全体のメッセージをコンテンツとして大まかにつかむための渡し船のようなものです。
タイポグラフィには、書面で情報を伝えるという唯一の義務がある。 -エミール・ルーダー
…フォントの価値!
結論です。
質の高い商用フォントの影響力を認めます。今回の議論への回答として、そこに価値があると思うのです。タイポグラフィはコンテキスト内において、どのような価値があるのでしょうか?個人的なブログでは、過度にパーソナライズされた高価なフォントファミリーはあまり必要とされません。反対に、1万ドルまたは5万ドルのブランディング案件においては、確かな差別化を生み出すために、数百ドルを費やすことを検討するかもしれません。
かといって、高い価格のものが必ずしも高い価値のあるものとは限りません。世界一高価なフォントとして、TEFF Lexiconがよく取り上げられます。美しいフォントです。その価格は、1スタイル391ドル、フォントファミリー(24スタイル)で4,996ドルです。法外な価格設定であるフォントのため、ほとんどのプロジェクトでは採用されません。さらに高価なフォントとして、JHA Bodoni Ritalicがあります。Bodoniの復活イタリック体の1スタイルあたりの価格は、なんと5,000ドル …!もう理解できません。
タイプデザイナーやファンドリーが一生懸命作成した高価なフォントファミリーを買わなければいけない、と思う必要はありません。Dafont(+ 3,100フォント)、Font Squirrel(+3,000フォント)、Google Fonts(+800フォント)等の無料なオプションもあります。え?こんな凄い方が?と驚くようなタイプデザイナーでさえ、カタログにフリーフォントを提供しています(中には素晴らしいオプションがあることもありますが、疑って見ることも忘れずに) デザイナーズ・ファンドリー(または「TDF:正式にはTen Doller Fonts」)では、100種類以上ものフォントを手ごろな価格で提供しています。
高品質のファンドリー検索に役立つ3つのリソースは次のとおりです:Type Foundries Archive (+300ファウンドリーのリスト有!)、FontStand、Village。
私の最終的な考え:
賢くなりましょう。たくさんリサーチしましょう。そして、自分がなぜそのフォントに決めたのか、また、そのフォントがどのようにクリエイティブ概要を反映させているかを、自分自身に問いかけましょう。
created by Matt Yow
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