2020年7月15日に日産自動車が、2021年発売予定の新型EV(電気自動車)「アリア(Ariya)」を発表。それと同時にブランドロゴを新しいデザインにリニューアルすることを明らかにしました。
REUTERS / ISSEI KATO – stock.adobe.com (日産のアリアと新ロゴ)
日産の公式サイトのロゴはすでに新しい2Dデザインのものに差し替えられています。エンブレムとしてアリアのフロントパネルに装着されるロゴは、LEDによって発光する機能を持ちます。太陽をあらわす円と水平に横切る「NISSAN」の文字という先代ロゴの要素は引き継ぎながらも、まったく新しい表情に生まれ変わました。
単純なフラット化とは異なる巧みなロゴリニューアル
スキューモーフィズムのスタイルで作られた立体的な先代ロゴと、ミニマルな新しいロゴを比べると、かなり印象が異なるのがわかります。金属のオブジェと白い紙に押したスタンプとの違いのようなものです。
#Nissan's new logo embraces the future, while staying proudly connected to our rich heritage and tradition of innovation for customers. Read the story behind the design here: https://t.co/vZIaC01XJI pic.twitter.com/N4J2eMPay9
— Nissan Motor (@NissanMotor) July 17, 2020
しかし、いったん先代ロゴは脇に置いて、新ロゴだけを見てください。公式サイトに掲載されているやや小さめのものがいいかもしれません。
日産自動車ホームページ http://www.nissan.co.jp/
「NISSAN」のワードロゴの背景に水平のバー(あるいは矩形)が現れてきます。さらに太いリングが周りに見える人がいるかもしれません。これは「主観的輪郭」と呼ばれる視覚的な錯覚(錯視)のひとつです。見え方は人によって異なるので、はっきり感じる場合もあればまったく見えないこともあります。
ミニマルデザインのロゴなどでは、描画されていない形が浮かび上がるようにデザインされているものがあります。
piter2121 – stock.adobe.com(WWFのロゴ)
たとえば、環境保全団体WWF(世界自然保護基金)はパンダのロゴが有名ですが、そのモノクロのシンボルにパンダの顔全体と胴体は描かれていません。ところが、その輪郭を脳は感じています。ネガティブスペース(白地)をうまく利用して、錯視によって成立させているグラフィックはミニマルデザインのロゴに多く見られます。
デジタルとの親和性を求めて拡がるロゴデザインのフラット化
欧州ブランドを中心に、立体的なデザインからフラットなミニマルデザインへのロゴのリニューアルが大きな流れになっています。ユーザーとブランドのタッチポイントで、デジタルの比重がますます大きくなっているからです。
スマートフォンやスマートウォッチ、車のダッシュボードなど、小さなデバイスやディスプレイでロゴが表示されるケースが多くなっているので、従来の3D表現のロゴは視認性の点で不利です。そこで3次元的デザインから2次元での表現へという流れが、とくに自動車業界で見られます。
新しいアプローチでおこなわれたブランドロゴの「リ・デザイン」
ただ、今回の日産ロゴのリニューアルは、単にデジタルとの親和性を目的にして3次元的デザインを2次元に置き換えたというわけではなさそうです。
日産の公式サイトに掲載されている「新しいブランドロゴが、日産の新たな地平を開く」という記事に、ロゴ創造のプロセスが記されています。
「順序としては、3次元のデザインから検討を始め、次に2次元の表現へと進みました。まず、イルミネーション付きのロゴがデザインされ、その後、イルミネーションのない2次元のデザインが開発されました。」
「イルミネーションのない2次元のデザイン」というのがわかりにくいですが、英文の記事(Redesigned Nissan logo signals a fresh horizon)にはもう少し具体的に説明されています。後半だけを引用すると以下のとおりです。
“… the illuminated brand badge was drafted first, pulling the illuminated area out to represent the brand in 2-D form.” (発光するエンブレムのアイデアが最初に出され、その光る部分を抜き出して2次元のロゴとしました。)
つまり、車体に取り付けるエンブレムのデザインが先だというのです。そこに組み込まれた、LEDで明るく光る領域がロゴになったわけです。
先代ロゴと新ロゴが合体したエンブレム
特設サイトなどに公開されている新型EVアリアの写真や動画でエンブレムを確認することができます。
https://www.youtube.com/watch?v=dKeE4WLWp9M
フロントパネルやハンドル、ホイールなどに装着されているエンブレムを見ると、デジタルデータのロゴとは異なる印象を受けると思います。新しいロゴとして紹介されているフラットデザインのものよりも、先代のロゴに近いように感じます。
小さい画像だと、むしろ瞬時に新ロゴを認識できない人もいるかもしれません。発光すると新ロゴのアウトラインがはっきりと浮かび上がります。発光した状態のエンブレムと先代のロゴを比べると、先代ロゴのリングの内側の面とワードロゴが新しいロゴのベースとなっていることがわかります。
日産のグローバルデザイン担当専務執行役員であるアルフォンソ・アルバイサ氏は、ブランド・アイデンティティ変更のための特設デザインチームに「薄く、軽く、しなやか」というキーワードを与えました。デザインチームはそのキーワードを軸に、日産の豊かな歴史と伝統と、未来へ向かう姿勢の両方を、デザインで表現しなければなりませんでした。先代ロゴのエンブレムに新しいロゴを埋め込むというスタイルはその答えなのです。
さらにもうひとつの3Dロゴ
テレビCMでは新しいロゴが使われているので目にした人もいるでしょう。赤い画面に現れるロゴは、エンブレムともフラットロゴとも違う表情を見せています。公式サイトで「3D White Brand Logo with Shadow」(影付き3Dブランドロゴ – 白)と紹介されているものをコーポレートカラーのひとつである赤で演出しています。
フラットな2Dロゴに影を付けて立体的にしたバージョンです。現実のエンブレム、光る部分を抽出した2Dロゴに続く3つめのロゴになります。先代ロゴと同じく2次元上で「3次元的」に表現したものなので、リアルの世界でこのようにレリーフ加工されて掲示されるものではないと予想しますが、実際のところはどうなのでしょうか。
影付きバージョンの方は長く見つめても、フラットロゴのようにワードロゴの背景に水平の矩形が見えたり、リングの厚みが現れてくることはありません。こちらは新ロゴのフォルムを強調する意図があるのでしょうか。
フラットロゴと3Dバージョンそれぞれの用途や、これからどのように展開されていくのか注目したいところです。
「DATSUN」ロゴに由来する丸と矩形の組み合わせ
日産自動車の前身であるダット自動車製造が生産した車は、1932年に「DATSUN」(ダットサン)と命名されました。
Alexandr Blinov – stock.adobe.com(DATSUNのロゴ)
そのころに作られたロゴマークは、太陽または日本国旗を思い起こさせる赤い丸に青い水平の矩形を重ねて、白い文字でブランド名「DATSUN」を置いたものです。1980年代前期まで、世界ではDATSUNブランドが使われていました。その後ブランド名がNISSANに入れ替えられます。
wolterke – stock.adobe.com(NISSANの先代ロゴ)
2001年に先代ロゴが導入されますが、丸・矩形・ブランド名という基本的な構成は踏襲されました。今回のブランド・リニューアルでも、このモチーフは維持されています。エッセンスをギリギリまで抽出したうえで、大胆にデザインし直した一例と言えるでしょう。
【参考資料】
・新型車 日産アリア オンライン発表会 (https://www.thenissannext.com/jp.html)
・Nissan Cars, Trucks, Crossovers, & SUVs | Nissan USA (https://www.nissanusa.com/)
・Nissan™ Official UK Website | Discover Our Full Vehicle Range (https://www.nissan.co.uk/)
[過去のロゴ・エンブレムが閲覧可能]
・NISSAN | HERITAGE (https://www.nissan-global.com/JP/HERITAGE/MESSAGE/)
[3D/2D logo with shadow]
・Nissan reveals latest logo design
(https://finance.yahoo.com/news/nissan-reveals-latest-logo-design-000000107.html)
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