今や至る所にロゴマークが溢れている時代ですが、みなさんはその必要性についてお考えになられたことがありますか?
企業や団体、グループ、または個人の図柄マークが、『ロゴ』です。ギリシャ語「λογότυπος(ロゴティポス)」から由来した「言葉の活字」を、記号(シンボル)化し、社名や理念を取り込みつつ、シンボルとして人々の頭の中に記憶させるのがロゴマークです。
もはやロゴマークは企業にとって欠かせない大切なエレメントです。見たことのあるロゴをつけた商品の方が、一度も見たことのないロゴの商品よりも消費者に選択されやすい、という事実は日常生活茶飯事です。また別の例ですが、海外で日本企業のロゴマークを見かけると、なんとなく嬉しくなったりしませんか?
これは、そのロゴマークが、日本企業(この場合は「日本との」ですが)との距離感を縮め、安心や信頼という感情を呼び起こしてくれるためです。ロゴマークの善し悪しで、企業や商品の印象は変わってくるのも、この潜在的にユーザーの意識の中に入り込むというロゴマークの特徴です。ロゴデザインは企業にとってとても重要な宣伝媒体でもあります。ユーザーに親近感や信頼感を与えるロゴデザインはどんなものなのか、今回は、みなさんおなじみの飲料ブランドのロゴを例にとって見ていきましょう。
1)コカコーラ(Coca-Cola)のロゴ
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1892年にアメリカ合衆国ジョージア州アトランタに設立したザ・コカ・コーラ・カンパニー(The Coca-Cora Company)が製造販売する飲料、コカコーラは、世界のほとんどの国で愛されているドリンクです。
そのロゴデザインの一番の特徴は、なんといっても色彩「赤色」にあります。赤色のもつイメージ『明るい』『活発』『情熱』といったプラスイメージを上手くコーポレート・カラーとして浸透させてきました。
ニューヨークの港で『自由の女神』の建設が進められていた1886年、そこからおよそ1200キロ離れたアトランタで、後にアメリカの象徴ともなるコカコーラが一軒の薬局から誕生しました。その初期のロゴは、当時流行っていた筆記体の流麗なSpencerian(スペンサリアン)フォントを使用した文字「Coca-Cola」で構成されたものです。
このロゴを考案したのは、コカコーラを発明したペンバートン博士の経理係を務めていたフランク・M・ロビンソン氏。赤色と白色のコントラストがお気に入りだった彼は、コカコーラのロゴにもこの二色を使い、「おいしく、さわやかな」という意味のコピーを添えて、最初のコカコーラのロゴを完成させたのがはじまりです。
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「コカコーラ」の赤い看板が登場した1948年には、『コカコーラ=赤色』という認識は、一般消費者の間にも広まっていきます。その後、時代と共に、文字のみのロゴに波形のラインが加られたり、背景の形に変化があったり、などの小さな変更はありましたが、基調となる赤色の採用や、はじめの「C」字の下部を長く伸ばした初期の文字構成よりつくられたコカコーラの文字ロゴは、現代までずっと変わらず受け継がれています。
2)ペプシコーラ(Pepsi-Cola)のロゴ
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一方、ペプシコーラは、1898年に誕生した、アメリカ合衆国ニューヨーク州に本社を置くペプシコ社が、こちらも全世界に展開しているソフトドリンクです。
前述のコカコーラのロゴが基本的に販売初期から変わっていないのに対し、ペプシコーラのロゴは時代の移り変わりと共に変化してきました。
まずはカラーですが、1940年代までは赤色を採用。その後、1950年からは基本カラーを赤、青、白の三色に設定し、今日に至るまで、この三色が商品イメージカラーとなっています。
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また、コカコーラと同様、初期のものは文字のみのロゴでした。1940年代までのロゴを見ると、非常に修飾性の高い、文字デザインで制作されたのが伺えます。
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1970年代より「Pepsi」の文字とこの三色を彩った円を構成したロゴに変化。コカコーラが文字のロゴデザインを維持するのに対して、ペプシコーラは幾何学をベースにしたイラストの使用など、よりビジュアルなデザインを展開させていきます。
最新ロゴは、一見、シンプルですっきりしたものに見られるロゴですが、人間の潜在感性を刺激することを緻密に計算したデザインとも言われています。
3)レッドブル(Red Bull)のロゴ
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レッドブルはオーストリアに本社を置くRed Bull GmbHが販売する清涼飲料炭酸水です。世界160カ国以上で販売されており、国によって分量や成分が多少異なっています。赤い牛が角を突き合わせたロゴで有名ですが、ロゴのモチーフに赤い牛が使われているのは、このドリンクの誕生ルーツに由来します。
レッドブルは、もともとタイで売りだされていた『Krating Daeng(グラティン・デーン)』、タイ語で『赤いガウル』という栄養ドリンクを元にして作られたものです。グラティンはウシ科の動物である『ガウル』、そして、デーンは赤色を意味します。
「Red Bull」の名前は「Krating Daeng」をそのまま英語にしたものなのです。
この栄養ドリンクは、1980年代に歯磨き粉のセールスマンとしてタイに来ていたオーストリア人のディートリヒ・マテシッツの目に留まり、ライセンス契約がされます。その後、独自の配合で改良を重ね、今までにないエナジードリンクを開発、ヨーロッパでの販売がはじまりました。タイ国内でしか試飲できないオリジナルのドリンクより、もはや世界的に展開されるレッドブルが圧倒的に有名になったのは周知のことですね。
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ちなみに、本家本元のタイ原産のレッドブルのロゴマークも、赤い牛の角を突き合わせたものです。
4)スターバックス(Starbucks)のロゴ
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次は、スターバックスをみてみましょう。
スターバックスコーヒーは1971年にアメリカ合衆国ワシントン州シアトルで生まれたました。テイクアウトと歩き飲みスタイルでのドリンク販売の火付け役ともなったコーヒーチェーン店で、いまや60以上の国と地域で営業を展開しています。
スターバックスのロゴの一番の特徴は、真ん中に配置されている女性のイラストです。この女性はギリシャ神話に登場するセイレーン(Σειρήν)。 海に住む上半身が人間の女性、下半身に二つの尾を持ち、鳥または魚の姿をしている生物で、人魚の原型とも言われています。この人魚がロゴデザインに組み込まれた理由は、スターバックスの創業者のメンバーのひとりが、コーヒーの歴史や航海史のルーツを探っていたところ、ノルウエーの木版画にこのセイレーンを見つけ、ロゴに取り入れたのが始まりです。
セイレーンはとてもきれいな歌声で船乗りたちを魅了したといわれ、スターバックスも同様に美味しいコーヒーで多くの人たちを魅了したい、という想いも込められているセイレーンの採用でした。実際、1971年創業当時の初期のロゴは、今やスターバックス・カラーであるダーク・グリーンではなく、コーヒーの色の茶色を使い、セイレーンの図柄も版画調のものです。その後、このスターバックスのロゴは何度か変更、修正が行われます。
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1987年には、基調色に茶色からダーク・グリーンへ変更、セイレーンもかなりシンボリックなものとなる、大幅なロゴデザインの変更がありました。また、1992年のロゴでは、それまでの全身を描いたセイレーンの図柄から、上半身と尾のみとなりました。2011年に変更され現在のスターバックスのロゴは、文字「STARBUCKS」が消え、よりシンボリックなセイレーンが全面に配置されるロゴデザインとなっています。
5)ファンタ(Fanta)のロゴ
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ファンタは、1940年にザ・コカコーラ・カンパニー社のドイツ法人で開発され、販売が始められた炭酸飲料です。
『ファンタ』という名称は、当時ドイツでの開発会議中に口にされた「Fantasie(想像力)」が語源となったと言われています。Fantasy(空想)やFantastic(すばらしい)の言葉にも連繋し、多くの言語に共通する発音から成り立ち、なじみやすいのが決め手となりました。
1941年に『ファンタ』として商標登録された初期のロゴは非常にシンプルなものでした。
1955年にフランスのインダストリアルデザインの巨匠、レイモンド・ローウィ(Raymond Loewy、1893−1986)により新しいボトルがデザインされ、このリングボトルのファンタは、その後、世界各国へ販売展開を始めます。
ボトルの形状に沿った台形型の背景に『Fanta』の文字が配置されたロゴは、各国の人々に認識されていきます。1958年には日本にも登場。当時のポスターや印刷物に描かれているロゴには、カタカナで『ファンタ』と表されているものもあり、とても興味深いです。果物(オレンジ)のモチーフがあらわれはじめたのは、1970年代のロゴデザインからです。
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1990年代の終わり頃には、ロゴ『Fanta』の文字フォントが、より一層ポップなものに変わり、それと共にボトルの形状も変化しました。現在のロゴデザインを見てみると、軽快な丸みを帯びた手描き風の文字を採用、基本色はブルーとなっています。
6)スプライト(Sprite)のロゴ
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こちらもロングセラーブランドの炭酸飲料、スプライトは、もともとは上記のドイツのザ・コカコーラ・カンパニー社が販売したレモン風味のファンタ『クリアレモンファンタ』でした。
1961年にアメリカ合衆国のコカコーラ社が、ドクター・ペッパー・スナップ・グループ(Dr. Pepper Snapple Group Inc.)社のレモン風味ソフトドリンク、7Up(セブンアップ)に対抗するために『スプライト』と名付けて販売しました。
PhotoTodos / Shutterstock.com ・ライバルの7up
この名称の由来は、「Spirit(気力)」と「Sprite(妖精)」からきています。炭酸による刺激感や爽快感、そして清涼感のあるレモン風味のドリンク、ということをモチーフに、スプライトのロゴは作られています。近年のロゴデザインの変更では、基調カラー、グリーンの印象をより強化、はじける炭酸の泡の力を彷彿させるようなアクティブなデザインとなっています。
日本では、スプライトの日本仕様のロゴも存在しました。他の国に採用されている共通な動きのあるロゴに対して、日本仕様のものは少々レトロ調。カラーリングの緑が柔らかさを醸し出し、また『i』字の点を炭酸の爽快感を表す形にしていて、爽やかな印象を生み出しているロゴです。2013年以降では、この日本仕様のロゴも変更、全世界共通のタイプに変わりました。
7)ネスレ(Nestlé)のロゴ
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さて、最後はネスレです。ネスレは、1866年に薬剤師のアンリ・ネスレ(Henri Nestlé、1814−1890)によって創業した、スイスの西部レマン湖地方にあるヴヴェイ(Vevey)に本社を置く世界最大の食品・飲料メーカーです。
イギリスでは「Nestle’s」を「Nessels」と宣伝していたため、現在でも一部で「ネスレ」を「ネッスル」と発音されることがあります。日本においては、1994年に社名を従来の「ネッスル日本」より、「ネスレ日本」に変更しました。
全てのネスレ製品に付けられているロゴマークは、母親がひなを見守る姿。鳥の巣の中で親鳥と二羽の小鳥が向き合う、ほのぼのとしたイラストは、みなさんも何度か目にしたことがあるロゴマークかと思います。鳥の巣と母子鳥というモチーフは、アンリ・ネスレ氏とネスレ社の最初の商品であったベビーフードに大きく関係しています。「ネスレ」という企業名の由来となっているのは、創業者のアンリ・ネスレ氏の名前からですが、同時に『ネスレ』という言葉自体、ドイツ語で「小さな鳥の巣」という意味を持っています。
初代ロゴマークはネスレ氏の家紋をモチーフに作られていました。また、ネスレ氏はドイツ人の一風変わった発明家でした。スイスに移住した1867年、母乳を飲めずにいた友人の乳児に、ミルクと澱粉を調合した手製のベビーフードを食べさせたところ、たちまち元気を取り戻します。 この『奇跡の商品』はスイス中に広まり、5年後に行われたパリ産業時博覧会で金メダルを獲得。この乳製品のベビーフードがネスレの原点となる最初の商品です。
ネスレの原点である親と子の絆を繋ぐ乳製品、そして創業者の名前も併せて、生まれたのがネスレのロゴマークです。1868年のはじめのロゴは、細密の描かれた鳥の親子と巣がデザインされ、文字はありませんでした。1938年のロゴからは『NESTLE’』の文字と巣の図柄を組み合わせたものになります。1988年になると、それまで3羽のひな鳥だったのが2羽となり、文字と巣の絵柄が重なることのないタイプに変更されます。その後、モチーフを変えることなく、よりシンプルなものと変更・修正が行われ、現在のロゴマークはスマートフォンなどのデジタル機器でも読みやすいようなソフトなデザインに仕上がっています。
まとめ
各社の歴史、理念、そして目標が詰め込まれたロゴマークは、その企業の顔とも言える大切なエレメントです。今回、見てきたロゴデザインは、ユーザーに各社のブランドイメージを定着させるロゴ本来の機能を存分に成功させている例だと思います。
その重要性を理解し、ユーザーに親近感を与え、認識されやすいロゴをつくりあげることが、良質なロゴデザインの一歩なのではないでしょうか。
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