「安い=悪い」という方便はもう使えない。
WEBサイトやクラウドソーシングを介して、安価にデザインや写真撮影などのクリエイティブな業務を依頼できるようになり、もう何年くらいになったでしょうか。
ランサーズの創業が2008年ですので、もう10年くらいになりますね。すっかりビジネスとして定着していると思います。
ネット上でも、実際に交流するデザイン関係の仲間たちからも、「安売りデザイン」に困っているという話は絶えません。昔は、いわゆる安売りデザインというのは安かろう悪かろうの世界だったと思います。
そのため「気をつけて!彼らにデザインを依頼するとこんなデメリットがあるよ!」という形で、安売りデザイナーとの差別化を図ることができました。言い方は良くないですが、自分たちを上げるというよりも、相手方を下げる感じです。
安くて良い感じのデザインという存在
ところが最近は違った困惑が渦巻いています。
【安いのにめちゃくちゃ良いもの作る人】の存在です。
以前はデザイン事務所でバリバリと働いていたが退職し、今は家事の合間に自分のペースで仕事をしている…というケースを知っています。彼女はそれほど多くの収入は望んでおらず、のんびりとデザインができれば良いというスタンスです。元々最前線でデザインをしていたので、実力は申し分ありません。
こういう人がわんさといるので、安くて良いデザインというのが手に入りやすい時代なのだと思います。
つまり以前の「安い=悪い」という方便は使えなくなりました。依頼者からすれば「同じくらいの品質で安いなら、そっちが良いに決まってるじゃん」となるのは自然です。「こんな値段で仕事されたら困る…」というリアルな嘆きは何度も耳にしています。
従来の価格・サービスで仕事をしている人は、自身の方が遥かに価値があるんだという事を知らしめないと差別化できなくなっていると思います。もう安売りデザイナーをディスっても無駄です。
デザインも商売
デザイン・写真・イラストだって、そもそもお金と交換する【商品・サービス】です。経済活動です。市場のニーズに合えばそこに人が集まります。
100円ショップで買い物をしたことや、ワンコインでラーメンを食べた事はありませんか?同じグラスでも単に“水が注げれば良い”というニーズであれば、100円ショップのグラスの価値って凄く高いと思います。その土台でバカラグラスを売ろうとしても分が悪いわけです。
他者の追随を許さないほどズバ抜けている人なら、ビジュアルだけで差別化できる事もあるでしょう。(そんな人はそもそも他人の安売りがどうとか気にしていないと思いますが)
でもそれ以外の多くのデザイナーにとって、ちょっとした審美的な差異を【差別化】とするのは弱いと思っています。同業者として「あの人は素敵なデザインするなぁ」と思う事は多々ありますが、世の中(普段別にデザインに興味のない人)の評価ではそこまで他のデザイナーと差異がない事はよくあります。
あくまで例えですが、デザイン以外の部分(打ち合わせやディレクション)がとても快適だったり、実際に何らかの成果に直結したり、ブランドの価値を高めることができたり、そういう事へのある種の保証があれば別の土台で勝負することができます。もう単に”水が注げれば良い”グラスとは比べられません。
実際、引く手数多の人気デザイナーやフォトグラファーは、単に「上手い」に留まっていない印象です。それ以上の色々な価値を感じます。
結局自分の価値を作るしかない
今までのやり方で価格が維持できなくなる事態は別にクリエイティブに限った事ではなく、その他の【商品・サービス】ではごく当たり前に起こっています。これからも色んなタイミングで起こると思います。
そもそも、何をいくらで売るかはその人の自由なので、そこを突いてもあまり意味は無いなと思っています。現状維持で相対的に価値が下がっていくなら、新しい事をしないといけませんよね。
僕も何か考えないと。