米国のフィンテックブランドPayPal(ペイパル)が、2024年9月に新しいサービス「PayPal Everywhere」を発表。それと同時にリニューアルされたロゴデザインを公表しました。
これまで使われていたロゴデザインは、モノグラムとロゴタイプの組み合わせでしたが、新デザインでは基本的にロゴタイプだけになります。
PayPalは、1999年にオンライン決済サービスを開始しました。世界中の多くの国や地域で利用されています。しかし、海外の通販サイトで買い物をするひと以外には、日本ではまだあまりなじみがないかもしれません。
ロゴデザインリニューアルの背景や、新サービスとの関係などについて見てみましょう。
ミニマリズムを極めたロゴタイプ
.@trabuccocampos and team have designed a brand identity refresh for @PayPal that marks a new chapter for the digital payment platform. https://t.co/6pVybQ4dpj pic.twitter.com/WlTG9HQWrs
— Pentagram Design (@pentagram) September 17, 2024
今回のブランドリニューアルを手がけたデザインスタジオPentagram(ペンタグラム)の公式サイトで、PayPalの新しいアイデンティティデザインについて詳しく知ることができます。
ブルー系が使われてきた歴代のロゴ
・リニューアル前のPayPalロゴ / Tada Images – stock.adobe.com
今回のリブランディングを紹介するページには、歴代のロゴデザインが「ロゴの進化」として紹介されています。
サービスが開始された1999年以降、PayPalyは、ブルー系をブランドカラーとしてきました。
初代のロゴは、「P」をふたつ組み合わせたモノグラム風のエンブレムです。回転しているかのような効果がつけられているのがおもしろいです。
2代目以降はエンブレムではなくなり、基本的にブランド名のロゴタイプが使われてきました。すべてサンセリフ体の書体です。「PayPal」の文字は斜めに傾けられています。
2代目のデザインは、初代エンブレムの名残りが感じられるダークブルーの袋文字です。3代目以降は、「Pay」と「Pal」が濃淡のブルーで塗り分けられています。
4代目と5代目では、「P」のモノグラムによるシンボルマークとロゴタイプが組み合わせられてきました。
全体に、これまでのPayPalのロゴは、いずれもシンプルでミニマリスティックなデザインです。
さらにミニマルになった新デザイン
2024年9月に公開されたロゴタイプの新デザインは、歴代のロゴの属性が徹底的に削ぎ落とされました。究極のミニマルデザインになっています。
「P」を重ねたシンボルマークはロゴタイプと一緒には使われません。色は、濃淡のブルーから黒一色に変更。文字も斜体ではなくなりました。
「PayPal」というブランド名を示すという目的を最小限の要素で達成している、究極のミニマルデザインと言えるかもしれません。
しかし、歴代のロゴと並べてみると、ひときわ強い存在感を放っていることがわかります。
ジオメトリックなカスタム書体「PayPal Pro」
Think that should just about cover it. pic.twitter.com/pPHDanAeNv
— PayPal (@PayPal) September 12, 2024
今回のリブランディングにあたり、「PayPal Pro」というカスタム書体が作られました。この書体は、代表的なジオメトリック・サンセリフ書体のひとつである「Futura(フーツラ)」の流れをくんでいます。
1998年にスイスで創業したデジタルフォントメーカーLinetoが、Futuraのデジタル版として書体「L.L. Supreme」を2020年にリリースしました。L.L. SupremeをPayPalブランド用にカスタマイズしたのがPayPal Proです。新しいワードロゴもこのPayPal Proで組まれています。
Futuraはドイツで1927年にリリースされました。シンプルさと風格を合わせ持つ書体です。世界的物流ブランド「FedEx(フェデックス)」や、スウェーデンのウォッカブランド「Absolut(アブソルート)」など、伝説的なロゴデザインもFuturaをベースに作り出されました。
Pentagramは、このカスタム書体について次のように言っています。
「力強さ、自信、明快さといったブランドの特性を表現している」
クリアな印象にアップデートされたモノグラム
2014年から使われてきた「P」のモノグラムは、ロゴタイプとのコンビは解消されましたが、単独のシンボルマークとしては引き続き使われます。
先代のモノグラムは、コーナーに丸みがつけられていました。新しいデザインでは、これがシャープなエッジに変わりました。
また、先代では「P」の重なった部分はさらに暗くなっていました。ダークブルーの方が上にあるように感じるひとがいるかもしれません。
新しいデザインでは、明るい方のブルーが明度の高い色に変更されました。また、重なり部分も明るくなっています。ライトブルーの「P」の方が上になっているように見えます。
全体に、クリアでモダンな印象になっています。
整理されたカラーパレット
新しいワードマークは単色の黒に変わりました。これはブルーがフィンテックの代名詞となっていて、それらのブランドと一線を画すための判断でした。
一方、ブルーはブランドカラーとして残りました。ブランドのカラーパレットは、白、黒、ブライトブルー、ミディアムブルー、ディープブルーで構成されています。
先代のカラーパレットには、「Gold」という名前で黄色が入っていましたが、これは小売ブランドのブランドカラーと重複するので、新しいパレットからは排除されました。
80年代の名曲にのせて俳優が歌う「どこでも〜♫」
今回のリブランディングは、新サービス「PayPal Everywhere」のスタートと同時におこなわれました。
新サービスの公式プロモーション動画には、米国を代表するコメディアンであり俳優のウィル・フェレル(Will Ferrell)氏が登場します。米国でもっとも長く続いているバラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live)』などで人気を博しました。
スーパーマーケットで女性がPayPalアプリで支払うのを見て驚いたフェレル氏が、PayPalで払ったのか訊ねると、女性はこう答えます。
「ええ。お店でもPayPalが使えるようになったの。キャッシュバックもすごいんだから。」
それを聞いたフェレル氏は、PayPal Everywhereでさまざまな買い物を楽しむ自分を夢想します。その中で、キャッシュバックが5%であること、オンライン店舗での支払いにも使えることなどが説明されます。
BGMはヒット曲「Dreams」などで有名なロックバンド、フリートウッド・マックが1989年にリリースした「Everywhere」です。歌詞の「I wanna be with you everywhere(どこにいても一緒にいたい)」という部分を「I wanna pay with you everywhere(どこでも君と一緒に払いたい)」に替えて歌います。
妄想の中でフェレル氏は高級ブティックから、子供のレモネードスタンドまで、「どこでも」買い物を続けます。
「こんなうさん臭いレモネードスタンドでも個人情報は守られる」と子供たちの前で言って、「うさん臭いって何様?」と非難されるのがおもしろいです。
PayPalと新サービス「PayPal Everywhere」
これまでPayPalはどのようなサービスを提供してきたのか、それと新サービスはどのように異なるのかがわかれば、ブランドリニューアルの目指しているものが少し見えてくると思います。
決済代行サービス「PayPal」
PayPalは、ECサイトなどで支払いをおこなうとき、購入者と販売業者の間で、決済を代行するサービスです。PayPalアカウントで決済をすると【購入者の氏名や住所、クレジットカード番号などの個人情報を販売業者に伝える必要がない】という安全面でのメリットがあります。
PayPalは、ECサイトなどで支払いをおこなうとき、購入者と販売業者の間で、決済を代行するサービスです。PayPay(ペイペイ)と名前が似ていますが、PayPayや楽天Payなどのキャッシュレス決済サービスとは異なります。
店頭でも使える「PayPal Everywhere」
従来のPayPalは、基本的にオンライン決済でしか利用できませんでした。
新サービス「PayPal Everywhere」は、オンラインショップだけでなく、実店舗でも支払い代行が可能になりました。
デジタル機器での利用を考慮したリブランディング
Pentagram’s Paypal rebrand features a new motion language that mimics payment gestures > https://t.co/HjxeZYaVvF pic.twitter.com/XJyEheDQML
— It’s Nice That (@itsnicethat) September 20, 2024
新しいワードロゴには「個性がなくなった」という批判もあるようですが、消費者とのリアルなタッチポイント置いてみると意味合いが変わってきます。
ICチップの組み込まれたカードに大きくレイアウトされたワードロゴや、スマートウォッチの画面に表示されたモノグラムは、「無個性」という評価がまったく的外れだと訴えているようです。
Pentagramの公式サイトには、アニメーションで示されているワードロゴやモノグラムが多く掲載されています。タップ、クリック、スワイプ、フリップといった動きによって、モバイル機器を使う消費者の日常的な体験を思い起こさせます。
今回、モバイル機器の画面上での読みやすさを考慮して「PayPal Pro Text」も第2書体として開発されました。
新事業の立ち上げや、サービスや業務内容の変更にともない、ブランドアイデンティティのリニューアルがおこなわれることはよくあります。このとき、変化の大きさをデザインの変更度合いでも表現するケースが少なくありません。
しかし、それまでブランドが築き上げてきたものを損なうようなデザイン変更は避けるべきです。変化そのものを視覚的に示すのではなく、変更後のブランドが伝えるべきメッセージはなにか、をスタートポイントにするのがキーでしょう。
控えめに見えるPayPalのリブランディングからは、引き継ぐべき要素、変えるべき要素の見きわめの大切さを感じます。
世界最大規模のデザイン事務所「Pentagram」
今回のロゴリニューアルを手がけた「Pentagram」(ペンタグラム)は、グラフィックデザイナーのアラン・フレッチャー(Alan Fletcher)などが1972年にロンドンに設立した世界最大級の独立系デザインスタジオです。ブランディングから書籍デザイン、広告、プロダクトデザイン、インテリア、建築、環境デザインまで幅広く活動しています。
【参考資料】
[PayPal公式サイト]
Pay, Send and Save Money with PayPal | PayPal US (https://www.paypal.com/us/home)
[新サービス「PayPal Everwhere」プレスリリース]
Press Release: Introducing PayPal Everywhere (https://newsroom.paypal-corp.com/2024-09-05-Introducing-PayPal-Everywhere)
[新サービス「PayPal Everwhere」プレスリリース:キャンペーン告知]
Press Release: Will Ferrell Goes Shopping ‘Everywhere’ in PayPal’s Biggest US Campaign Ever – Sep 9, 2024 (https://newsroom.paypal-corp.com/2024-09-09-Will-Ferrell-Goes-Shopping-Everywhere-in-PayPals-Biggest-US-Campaign-Ever)
[メディア:ロゴデザイン紹介]
PayPal has a new logo that makes it look just like everything else – The Verge (https://www.theverge.com/2024/9/18/24248315/paypal-new-logo-design-2024-update)
PayPal launches a new stripped-back identity (https://www.creativereview.co.uk/paypal-branding-identity-pentagram/)
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