自宅で本格的なラーメンを簡単に楽しめるミールキットをネット販売している米国のRamen Hero(ラーメンヒーロー)がロゴをリニューアルしました。
Today on Brand New (Noted): New Logo, Identity, and Awesome Cowboy for @RamenHeroHQ by @iyashi_sf https://t.co/qdTikvV9kz pic.twitter.com/cC8AZEn90Q
— UnderConsideration (@ucllc) April 29, 2020
同社公式サイトの2020年4月15日付ブログで、新しいマスコットキャラクターやプロモーション動画とともにリブランディングの意図が説明されています。ラーメン食材の宅配というユニークな事業が新しいロゴに込めた思いを見てみましょう。
ラーメンキットの宅配サービスRamen Heroとは
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「Ramen Hero」は2018年から本格的に活動を開始したばかりのラーメン食材の宅配サービスです。サイトのメニューから好きなラーメンを選ぶと冷凍されたラーメンキットが送られてきます。キットの麺やスープ、具をお湯であたためると10分程度でラーメン専門店の味が楽しめるというものです。
豚骨、味噌、醤油などおなじみのものから、ビーガンラーメン、抹茶塩ラーメンなどユニークなメニューまで10種類ほどが提供されています。メニューには「ミソ・インポッシブル(Miso Impossible)」「ミソザウルス(The Misosaurus)」といった楽しい名前がつけられています。
スパイシー豚骨ラーメンの名前は「燃える想い(Burning Love)」です。仲人を意味する単語matchmaker(マッチメーカー)をもじったMatchamaker(マッチャメーカー)には「抹茶塩ラーメンと恋に落ちてください」というコピーが添えられています。
Sushiの次はRamenがブームになると予測されている米国で、店舗ではなくミールキット宅配を始めたRamen Heroは注目されています。
マンガのタイトルをイメージした新ロゴ
新旧ロゴデザインの違いを見てみましょう。
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以前のロゴはラーメン鉢がスーパーマンのマントの裾のようにデザインされたミニマルなシンボルマークが使われています。自宅に届けられるということを表現しているのでしょう。スラブセリフ系のFreight Micro Proという書体で組まれたワードロゴとの組み合わせは破綻のないデザインです。しかし、Ramen Heroという名前のインパクトと比較するとおとなしい印象でした。
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一方、新しいロゴは、日の丸のイメージやカタカナ、原色といった要素によってかなりインパクトの強いものになっています。大文字だけで組まれていたワードロゴは小文字との組み合わせに変えられました。旧ロゴと同系のFreight Microをベースとしながら、セリフの先端を鋭くとがらせるなどの加工を加えています。
また、カタカナのワードロゴが新たに追加されました。レトロなマンガタイトルのようでもあり、アメコミのロゴを思わせるようなところもあります。スニーカーのサイドラインのような弧を描く「メ」が特徴的です。この1文字のおかげで「ラーメンヒーロー」が心に残ります。
マスコットキャラクター「Yama」のデザイン
今回のロゴリニューアルにともなって、マスコットも生まれました。
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富士山を擬人化したキャラクターで、頭にラーメンと箸をのせてねじりハチマキをしています。その名はズバリ「Yama(ヤマ)」。新しいロゴとマスコットからは、マンガのイメージを借りて「ヒーロー感」をかもしだそうとしていることがうかがえます。マッチョなヒーローではなく、かわいいヒーローですが。
カウボーイが「Honkaku」の意味を説明するプロモーション動画
また、プロモーション動画は古典的な西部劇のパロディです。どこかとぼけたカウボーイがRamen Heroのラーメンを紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=W2jAjin6GRE
動画の中でアピールしているのが「Honkaku(本格)」という言葉です。「wagyu(和牛)」「umami(うま味)」といった単語は既に英単語の仲間入りしていますが、「honkaku(本格)」は多くの米国人にとって初めて出会うことばでしょう。ここにRamen Heroの創業者ヒロ・ハセガワ(Hiro Hasegawa)の想いが込められています。
すべての米国人に本物のラーメンを届けるというミッション
ヒロ・ハセガワこと長谷川浩之氏は東京大学を卒業後に起こした会社を1年ほどでたたんで2014年に渡米します。さまざまなアイデアを試行錯誤しますが、うまく形になりません。もともとラーメンが大好きだった長谷川氏は米国でおいしいラーメンに出会っていないことに気づきます。
すでに「tonkotsu(とんこつ)」が通じるほどラーメンブームといいながら、米国のラーメンは全般にクオリティが低く、日本のラーメンには程遠いレベルの店舗がほとんどでした。味のよい店はサンフランシスコやニューヨークなどの大都会に数店舗しかなく、しかも長い行列に1〜2時間並ばなければ食べられません。
長谷川氏は、この状況にビジネスチャンスを見出しました。そこで日本へ戻ってラーメン専門学校で修行。再渡米後にオフィスケータリングやホームパーティーで米国人のフィードバックをもらいながら試作を繰り返します。その中で考えついたのがラーメンのミールキットサービスです。クラウドファンディングのKickstarterで試すとあっという間に成功し、事業化を決定しました。
Ramen Heroのミッションは「もっともおいしい本物のラーメンをすべての米国人にどこにいても体験してもらう」というものです。その想いが「Honkaku(本格)」という言葉に象徴されているのです。
デザインを担当したのはIyashi Brand Studio(イヤシ・ブランド・スタジオ)
今回のリブランディングを手がけたはサンフランシスコのクリエイティブスタジオ「Iyashi Brand Studio」です。
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Iyashiは「癒し」を社名にしたもので、2002年に渡米したTakashi Kusui(タカシ・クスイ)氏が2016年に設立しました。
食に関する新しいキーワードとして「Honkaku」を持ち込むアイデアはスタジオIyashiによるものです。
「日本では『本格』派ラーメン店とは厳しい品質レベルと職人技を持つ店舗のことです。『本格』はRamen Heroを説明するのによい言葉です」
とKusui氏は述べています。
Iyashiは、アメリカン・エキスプレス(American Express)、エイボン(Avon)、ニューヨーク近代美術館(MoMA)といったメジャーブランドや、ライドシェアLyft、アパレルブランドFlora Dancia、自動車保険Metromileなど数多くのクライアントにサービスを提供しています。
Juan Molinet氏のキャラクターデザイン
富士山のキャラクター「Yama」を描いたのはアルゼンチン出身のJuan Molinet氏です。ドイツのベルリンを拠点に活動しているフリーランサーで、キャラクターデザインやイラストレーションを中心に国境を超えて作品を提供しています。
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Molinet氏の興味の対象には、ラバーホース・アニメーション(rubberhose animation)、ロボット、怪獣、ポップカルチャーといったものがリストアップされています。ラバーホースアニメーションというのは、ごく初期のアニメのことです。腕や足に間接が表現されず、ゴムホースのようにクネクネ動くことからこのように呼ばれています。
ユニセフ(Unicef)、ル・モンド紙(Le Monde)、ネスカフェ(Nescafé)といった世界中のクライアントにキャラクターを提供しています。英国版『風雲!たけし城』の『Takeshi’s Castle』ではだるまと鯉のぼりが使われています。また、日本の古い広告のイメージで制作された秀作シリーズは、あたかもそんな作品が実在したパラレルワールドを見るようでおもしろいです。
米国人の舌にチューニングした本物の味
長谷川氏は『Forbes JAPAN』のインタビューでラーメンの自由さについて、
ラーメンは「こうでなければならない」というルールを持たず、進化を続けているといっています。「誰もが自分の好きなラーメンを語りたくなる、世界的に見ても独特で楽しいフードカルチャー」であり、そのカルチャーと高品質なラーメンを届けたい。
と語りました。
長谷川氏によるとRamen Heroの利用者のうち日本人は1%くらいだそうです。あとは米国人ですが、さまざまな文化的背景を持っているので、現地で受け入れられるように日本の本格ラーメンの味を少しチューニングしているといいます。
枠にとらわれないダイナミックなリブランディング
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ラーメンの味のチューニングと同様に、今回のリブランディングにもクロスカルチュラルな要素が随所に見られます。日本出身の在米クリエイティブによる「Honkaku」というキーワードの投入、アルゼンチン出身のイラストレーターがイメージする日本的キャラクター、コミカルで古風なカウボーイが「本物」の日本流ラーメンであることアピールする、などです。
Ramen Heroの新旧ロゴを比べると、ミニマルなロゴをコミックタイトル風に仕立て直しただけのようにも見えます。タイポグラフィや色使いには、「本格」というコンセプトとの微妙な違和感を持つひともいるでしょう。
しかし、クロスカルチュラルな環境で生まれたロゴであることを意識すると違った見え方になります。Ramen Heroのキャッチフレーズは「Made in America. The Japanese Way」(米国製、日本流)です。このブランドメッセージをダイナミックに伝えているのではないでしょうか。
また、ロゴの巨匠ポール・ランド(Paul Rand)が言った、ロゴが事業内容を表す必要はないという言葉も思い出します。
「ロゴの使命は、特色があり、おぼえやすく、明瞭であることだけです」
ロゴの赤い丸が、西部劇のラストシーンで大平原に沈む夕陽のようにも見えてきました。
【参考資料】
・This Lovable Cowboy Selling Ramen Is the Ad Star 2020 Needed – Adweek (https://www.lancers.jp/mypage/message/?boardId=4866553)
・San Fran agency Iyashi is going “Honkaku” for Ramen Hero. (https://medium.com/@iyashi/san-fran-agency-iyashi-is-going-honkaku-for-ramen-hero-e1ab3a2827fd)
・海外でも自宅で美味しいラーメンを ラーメン愛が突き動かした、日本人起業家の挑戦 | Forbes JAPAN (https://forbesjapan.com/articles/detail/26756/4/1/1)
・東大からシリコンバレーで起業家へ HIRO HASEGAWA, RAMEN HERO CEO | Racoon (https://racoon.community/posts/hiro-hasegawa-ramenhero/)
・僕がサンフランシスコで起業した理由 – サンフランシスコの日本人起業家のブログ – Medium (https://medium.com/hiroh/sf-645cfa27d5b0)
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