イタリアに住むようになって、何度も目にしてはそのたび不思議に思うのが、いちど始まるとびっくりするほど終わらない工事現場の風景。例えば、ミラノの中心を通りリナーテ空港まで届くラインになる予定の新しい地下鉄・M4線の工事も、この秋一部開通するものの、全線の完成は 2024 年秋と長い道のり。途中パンデミックの影響による3カ月の遅れもありましたが、掘ると何か出てくる歴史の深い街、考古学的に貴重な発見と言える中世の壁を掘りあて、発掘と搬送に時間がかかるというエピソードもあり、当初のスケジュールからすでに15カ月もの遅れになっているそう。開通を待つ駅周辺に、未だ残る工事現場を囲むフェンス、計画開始時に木々の伐採で近隣住民の反対運動が起こった名残の張り紙や、周辺には開通を待てず潰れた店(道が閉鎖されたりで売上にも影響が出たのでは?)が空き家となってガランと寂しい雰囲気です。
さて、今回レポートするCityLife Milano(シティライフ ミラノ)は、ヨーロッパ最大の再開発計画として、発表当初大変話題になったニュータウンです。世界に名を馳せる有名建築家のコラボレーション、サスティナビリティをエリア全体において実践し、広々とした敷地内には公園、菜園や幼稚園もあり、購入すればこの近未来的な街の住人となることを意味する高級レジデンスには、各界のVIPが入居しているようです。
2015年のミラノ国際博覧会前後に、ほぼ手付かずのように見えていた旧フィエラ(見本市)地区に、日本人建築家、磯崎新によるプロジェクトのイソザキ・タワー(別名:Diritto(まっすぐな・一直線の))が、徐々に“ニョキッニョキ”っと生えてきた時のことは忘れられません。このイソザキ・タワーに続き、当初の計画通り、建築界の歴史にその名を刻まれるであろうイラン女性建築家、ザハ・ハディド・タワー(別名:Storto(ねじれ))、ポーランド系アメリカ人の建築家ダニエル・リベスキンドによるリベスキンド・タワー(別名:Curva(湾曲))で構成される中心部にそびえ立つ3つの高層ビル「Tre Torri(3つの塔)」が徐々にそろい、直下のショッピングセンターもオープン後には急激に充実。ミラノの新しい生活拠点&観光名所として、シティライフ・ショッピング地区という名称は、今やドンと定着した感があります。加えて2021秋に着工した「City wave」計画は、 11,000 ㎡に及ぶ太陽光発電パネルを2つの建築物に橋渡しのように配置した、今までに例を見ない規模となる斬新さで、サステナブルな都市計画をさらに完璧なものにする構想。これまでの工事の遅れを一笑するかのごとく、 2025 年完成という日程を発表しています。
工事現場も、今や風景の一部?
この赤い壁は、いつからここにあったんでしょうか。まだ3つの高層ビルが揃わない時から?気付けば街の中心に入る道の側面を覆い「ずっとここにいたのに!」と素知らぬ顔で、工事現場を包み込んでいます。包み囲む物をきちんと守り、その魅力を中身が見えない状態でも伝えるという役割を考えると、パッケージと言っても過言でない存在。冒頭に触れた工事の遅れは、計画当初から現在に至るまで押して押して…で、もはや気にならない程になってきたCityLife Milano。この赤い壁の風景も消えることもなくここまで来ると風景の一部。工事現場を囲むただの壁であれば、金網のフェンスや、景観を重視するなら風景や木々をプリントした装飾シートで済む気もしますが、これはやたら目立つけど何とも全く不快にならないデザイン。気になって調べてみると建築家ダニエル・リベスキンド自身が描いた集合住宅デザインをあしらったものでした。建築ファンなら剥がして持って帰りたいレベルかな?トラックの幌(ほろ)のような素材なので、メッセンジャーバッグで有名なスイスのFREITAG(フライターグ)が、バッグにしてくれたりしないかなぁ〜と、勝手に想像しちゃったりして!
工事が終われば撤去してしまう工事現場の壁。しかしここにもこだわりがあったのですね。リベスキンドのレジデンス工事の施工内容を示す表示には、2022年9月に工事完了予定と書かれていますが、あれあれ?もう期間を過ぎてしまってますね…。ともあれ、完成したら撤去されるのでしょうから、期間限定の特別展示、しっかり眺めておきましょう。
リベスキンド・レジデンスと同じパターンで、赤地にTre Torriをプリントした壁は、もっとずっと広範囲にわたり、まだ完成には相当時間がかかりそうなArtLine Milano(アートライン・ミラノ)という巨大公園計画地とその地下パーキング予定地を覆っています。「City wave」も合わせてこのあたりに建つと思うので、写真の通りかなり激しく工事中、2025年の完成を目指すのでしょうか。
CityLife Milanoには、街のあちこちにアート作品が散りばめられています。キューバのアーティスト、Wilfredro Prietoの作品「Il BACIO DI PIETRA(石のキス)」は巨大な石が2つ寄り添う作品。子供たちがよくこの石の隙間から顔を出して遊んでいます。公園によくあるタイプの水道の蛇口も、実は若手アーティストのSerena Vestrucciによるオリジナル作品。一瞬気がつかないですよね!このほかにも、主に人と自然環境、社会的な課題へのメッセージを包含する作品たちが、風景の一部に紛れ、人と街の変化を見守るように鎮座しています。これらもArtLine Milanoの工事が終わった頃に、もう少しレポートしてみたいと思います。
私がミラノに来た十数年前には、見上げても空と雲しかなかったはずの空間に、今は3つの近代的な塔の頭がいつも視界に入ってきます。いつか完全に赤い壁が取れた後も、この新しい街自体が人の生活と環境を包み込みながら時を重ね、まるで二重包装の巨大なパッケージのように、古いミラノの風景に囲まれ、徐々に一つのミラノとして馴染んでいくんでしょうね。
参考:
・CityLife公式HP (https://www.city-life.it/)
・Lα Reppublica、M4工事中に発見された”中世の壁”搬送時の記事 (https://milano.repubblica.it/cronaca/2021/02/04/news/metropolitana_m4_milano_spostamento_mura_antiche_de_amicis-285964779/)
・Milano Città Stato、CityLife Milanoにある12のアート作品を紹介 (https://www.milanocittastato.it/featured/il-parco-darte-di-city-life-guida-alle-opere/)
<プロフィール> スタジオ MIRRO
イタリア在住。フリーGデザイナー&イラストレーター。ライティングでは各種媒体の記事制作やタイトル作成に関わり、ソフトタッチなイラストと同様、フワッとあたたかさが伝わる文章を心がけています。
※掲載商品・パッケージ等のデザインは当サービスの制作実績ではありません。
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