フランス車の代表的なブランドのひとつであるプジョーが、2021年2月25日(現地時間)に新しいロゴを発表しました。プジョーといえば、立ち上がっているライオンのエンブレムが印象的です。このシンボルマークが今回のリニューアルで、ライオンの横顔とワードロゴの組み合わせに変わりました。
The new #Peugeot308 #PlugInHybrid debuts the brand new Peugeot shield. Welcome to a new face – and a new era.Coming in 5…..4….3….2….1…. pic.twitter.com/BhDRLdGsYP
— Peugeot (@Peugeot) March 19, 2021
なめらかなカーブで動きを感じさせる先代のロゴに比べると重厚感があります。そして、3月18日(現地時間)に公開された新型「308」のフロントに掲げられていたのは新デザインのエムブレムです。先代ロゴと比べると大胆にも思えるこのリニューアルについて見てみましょう。
盾の中のライオンの横顔
.@Peugeot updated its logo as part of a rebrand to mark a new era of electric car manufacturing.https://t.co/cPTM2O9WUf
— Dezeen (@dezeen) March 17, 2021
新しいロゴは盾の形をしたフレームにライオンの横顔を置いたものです。ライオンの上には「Peugeot(プジョー)」のワードロゴがあります。
威厳を持って吼えているようなライオンは、一気に彫り上げた版画作品のような骨太のタッチで描かれています。複雑な形状をハイライトとシャドーだけで巧みに表現して、うまくフラットデザイン化してあります。盾のフレームに沿ったタテガミの処理も丁寧です。
ワードロゴに使われている文字は新しく用意されたオリジナル書体です。やや角ばったU、G、OなどがSF映画のタイトルでもよく使われるEurostile(ユーロスタイル)を思い起こさせます。荒々しいライオンのイラストとは対照的にモダンで知的な印象を受けます。
個性・歴史・先進性の象徴
プジョーのデザインディレクターMatthias Hossan(マティアス・ホッサン)氏が、ロゴの構成要素の意味を公式動画で説明しています。今回のリニューアルは、プジョーブランドの根本的な3つの価値「不朽(timelessness)」「個性(personality)」「品質(quality)」に基づいておこなわれました。
まず盾ですが、200年を超えるプジョーの歴史の中でエンブレムやロゴとして何度か使われたことがあるので、ブランドの歴史と未来を結びつける働きがあります。また盾は、世界のさまざまな国や地域で、プライドや帰属感、保護などを意味するシンボルです。
ライオンは、プジョー創立当初からのシンボルです。自動車の製造を始めるよりも前から現在まで一貫して使われています。プジョーブランドのアイコンとして、アイデンティティ、本能、個性の強さの象徴です。
そして、リブランディングにあたって作られたカスタム書体は、ブランドの先進性を表現しています。
横顔のエンブレムが初めて採用されたのは1960年
・1960年代のプジョーのロゴ / OceanProd – stock.adobe.com
盾の中にライオンの横顔を置いたエンブレムは、これまでにも一度登場しています。1960年に「404」のフロントグリルを飾ったデザインは今回発表されたロゴと同じ構成でした。しかし、ライオンの横顔とプジョーのワードロゴとという、盾の中にレイアウトされた要素は同じですが、まったくテイストが違います。
中世ヨーロッパの大理石の彫像のような写実的な横顔のレリーフは、車体に取り付けることだけを前提にデザインされたのかもしれません。印刷物に使われる2次元で表現されたロゴを見ると、平面媒体用ロゴへ加工するための苦労が想像されます。猛々しく威嚇するライオンの表情が、2次元ロゴでは微妙にニュアンスが変わっています。
いかにもレトロなスタイルのフォントは、水平のバーと垂直のラインのコントラストが強いサンセリフ系の文字で組まれています。階段状のEや直線的なGが特徴的です。垂直の太いラインに調和するように、カウンターが右に寄っているOはなんともいえない魅力があります。
巨大グループStellantisと高級ブランドとしてのプジョー
フランス映画『TAXi(タクシー)』は、1998年の1作めが大ヒットしてシリーズ化されたアクションコメディです。主人公が乗っていた過激な改造車がプジョー「406」でした。高級ドイツ車に乗る強盗団「メルセデス」を相手に大活躍します。プジョーは量産車としては世界最古のブランドといわれています。どちらかといえば大衆車で、映画『TAXi』も自国の大衆車が他国の高級車をやっつけるという痛快さが人気の理由のひとつでした。
ここ数年、自動車業界ではグループの再編成が進んでいます。2019年12月には、Group PSA(グループPSA)とFiat Chrysler Automobiles N.V.(フィアット・クライスラー・オートモービルズ=FCA)との合併が発表されました。グループPSAは、プジョー(Peugeot)、シトロエン(Citroën)、DS、オペル(Opel)、ボクソール(Vauxhall)などのブランドを展開してきました。また、FCAは、フィアット(Fiat)、アルファ ロメオ(Alfa Romeo)、クライスラー(Chrysler)、ジープ(Jeep)、ランチア(Lancia)、マセラティ(Maserati)を擁しています。このふたつがひとつになって、事業規模世界第4位の巨大グループ「Stellantis(ステランティス)」が2021年1月に誕生しました。
Wirestock – stock.adobe.com
この合併によってステランティスグループ内でのプジョーの位置付けが変わりました。2021年1月にプジョーブランドのCEOとなったLinda Jackson(リンダ・ジャクソン)氏が、公式動画のなかで次のように語っています。
「プジョーは一般向けブランドというランクから抜け出します。世界中での成功を熱望する、真に独創的で包括的なハイエンドブランドになるという目標を掲げます」
ライオンをモチーフとすることでブランドの伝統を維持しつつ、これまでの大衆車のイメージを刷新して、高級ブランドにふさわしいデザインにするためには、立ち上がるライオンから離れる必要があったのでしょう。
The Lions of Our Time(時のライオンたち)
これまでとは違うハイエンドブランドを目指すプジョーが掲げたキーワードが「time」です。2月のブランドリニューアル発表とともに、「The Lions of Our Time」というキャンペーンを開始しています。「プジョー体験」とは、「時間を質の高い時間に変える(Turn Time into Quality Time)」ものであるとして、実際のドライブから店舗での時間、サイトやSNSなどあらゆるタッチポイントで、ユーザーに質の高い時間を体験してもらうことで、高級ブランドとしてのプジョーを浸透させるキャンペーンです。キャンペーン動画では、ユーザーを代表するさまざまな人物の横顔に新しいロゴを重ねたイメージが使われています。
「The lions of our time」は、わたしたちの時代のライオンたち、とも訳せます。現代の成功者、といったニュアンスでしょうか。マーケティング・コミュニケーション・ディレクターのThierry Lonziano氏は、現代において誰がライオンか、と問いかけます。
「最も力を振るうひとたちでしょうか?最もお金をもっているひとたちでしょうか?違います。それは過去のライオンです。私たちが考える現代のライオンとは、もっとずっと貴重なものを持っています。それは自分自身の時間です。彼らは自分の時間を思うがままにコントロールしています」
そういう意味では、キャンペーンのタイトルは、自分自身の時間の支配者という意味が込められているのかもしれません。
新しいプジョーのロゴに関する4つのモード
ところでロゴには、ディテールが省略されたバージョンがあります。YouTube動画の画面右下に小さく配置されているロゴは、盾とその上部にラインが1本入っただけのものです。公式動画を見ると、アイコン(brand icon)、シンボルマーク(brand logo)、ロゴマーク(marker block)、ラディカル(radical)という4つのモードがあることがわかります。
省略バージョンはアプリなどのアイコンのようです。シンボルマークはブランドの標準的なロゴ。ロゴマークはシンボルマークとワードロゴの組み合わせ。ラディカルは、ワードマークを90度回転させて垂直に表示したものです。
立ち上がるライオンをモチーフとした先代ロゴデザイン
Björn Wylezich – stock.adobe.com
2010年から使われていた先代のロゴマークは、ライオンが二本足で立って、前足を突き出しています。突き出した左前足と踏ん張る左後ろ足が、ゆるやかに弧を描きながらひとつとなって動きを感じさせます。
自動車に装着されるエンブレムでは、繊細なヘアラインでつや消しされた面と光沢のある面とに描き分けられています。実際には複雑な処理がされている割には、全体に無駄のないシンプルさを感じさせます。印刷物やデジタルデバイスで使われるロゴでもエンブレムの立体感がグラデーションで表現されていました。
ワードロゴはサンセリフ系の書体が使われています。Gill SansやOptimaなどのようなヒューマニスト・サンセリフ(humanist sans-serif)系の大文字でゆったりと組まれた、優雅さと伝統を感じさせるデザインです。
プジョーゆかりの地の紋章
Orkidia- stock.adobe.com
立ち上がるライオンをモチーフとしたロゴデザインは、プジョー発祥の地、フランス東部フランシュ・コンテ(Franche-Comté)地方の紋章からとられました。
Gilles Paire – stock.adobe.com
このポーズのエンブレムがプジョー車の初めて装着されたのは、第二次世界大戦後初のモデルとして1948年に生産開始されたプジョー「203」です。このときのエンブレムは、突き出した舌やドラゴンのように開いた指、するどい爪などのディテールから、全身のシルエットまでフランシュ・コンテ地方の紋章をベースとしていることがよくわかります。
このライオンの立ち姿をモチーフとしたロゴは、その後も何度かデザイン変更されました。1955年に市場導入された403のフロントグリルを飾っていたのは、盾の中に、ライオンの立ち姿とワードロゴをあしらったものでした。
自動車製造を始める前からのシンボル
ところで、プジョーのシンボルはなぜライオンなのでしょう。ライオンは、王者、威厳、勇気、力などの象徴とされますが、他のブランドのように、もっとスピードや俊敏さを感じさせるような動物でもいいように思います。
ジャン=フレデリック(Jean-Frédéric)とジャン=ピエール(Jean-Frédéric)のプジョー兄弟が製鉄業を始めたのが、プジョー社の起源です。1810年のことです。バネや傘の骨、コーヒーミル、時計の部品などを製造していました。今でも胡椒をひくペッパーミルの裏を返すとプジョーのロゴが見つかることがあります。
OceanProd – stock.adobe.com
ライオンのシンボルは1847年に登場します。矢の上を歩くライオンの図柄が、プジョーの製品の強さと鋭さの象徴として使われました。プジョーブランドの最初の自動車は、1889年のパリ万博で発表した蒸気三輪車ですので、プジョーが自動車製造を開始する前からライオンがシンボルとして使われていたのです。
【参考資料】
・Evolution of the PEUGEOT logo | PEUGEOT logo and lions (https://www.peugeot.co.uk/about-us/brand/history.html)
・プジョーのロゴとその歴史 | プジョー公式サイト (https://www.peugeot.co.jp/brand-technology/peugeot-brand/history/the-peugeot-lions.html)
・Peugeot Logo | evolution history and meaning (https://1000logos.net/peugeot-logo/)
・Reveal Program | Peugeot New Brand Identity (https://www.youtube.com/watch?v=lf0PQ72o1Mg)
※公式WEBサイト情報もあわせてご確認ください。
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