一生使うつもりで作った「段ボールの棚」
新人デザイナーの初仕事は、自分用の棚作りから。
僕が最初に入社した会社は、パッケージや什器の設計が中心の製造会社でした。まだ何もわからない新人デザイナーだった僕は、最初の仕事として「自分の仕事道具を収納する棚を作れ」と言い渡されました。そしてその時、「一生使うつもりで作れ」という言葉まで添えられたんです。
この指示を受けた当時は、正直なところ「なんで棚?」と戸惑いましたが、今となっては、この経験が自分にとって大きな意味を持っていると感じます。
段ボールでつくる棚
しかも、素材は薄くて丈夫な段ボール。段ボールと聞くと、あの茶色くて地味なイメージが浮かぶかもしれませんが、実はこの業界では色や質感にバリエーションが豊富で、パッと見では段ボールだとわからないものも多いんです。
だからこそ、単純に箱を組み立てるのではなく、いろんな色や風合いを試しながら、「段ボールとは思えない」ような仕上がりを目指すこともできました。でも、いかんせん僕は新人。どんな色や質感が適しているかもわからず、あれこれ試しては失敗していました。
「一生使うつもりで」
「一生使うつもりで作れ」という言葉は、重たく感じました。まだ会社に入ったばかりで、将来どうなるかもわからない身分。「一生」なんて言われてもピンとこないし、そもそも棚一つで大げさな…と、内心思っていました。
でも、この言葉のおかげで中途半端な妥協ができず、「どうせ段ボールだし、テキトーに作ればいいや」という考えは封じられました。目立たない裏側の処理や、細部の寸法、素材選びなど、本当は手を抜いてもバレないようなところまで気を配る必要がある。そのことが、デザインの現場で求められる厳しさや丁寧さを、肌で感じさせてくれました。
同期はスタイリッシュ、僕はダサい
同期は感心するほどセンスがありました。要領よく、色選びも上手で、完成した棚はスタイリッシュで機能的。ぱっと見では段ボール製とわからないほど洗練されていて、うまく工具を使いこなし、完成した棚の挙動もスムーズでした。
一方の僕は、寸法の取り方から手こずり、色や質感を選ぶ目もなく、ただ頑丈さだけを追いかけて野暮ったい仕上がりに。使えなくはないけれど、どうにも洗練された雰囲気は出せません。内心「これが俺の最初の作品か…」と情けなく思ったものです。
それでも得たものがある
でも、あのとき必死に考えて段ボールを組み立てた経験は、フリーランスになった今でも僕を支えています。
「一生使うつもりで」と言われて真剣に取り組んだからこそ、デザインの本質をちょっとだけ掴めた気がするんです。たとえ一時的なモノでも、その瞬間に全力を注いで「長く愛用できる価値」を生み出そうとする姿勢は、どんな仕事でも通用する考え方だと思います。
モノづくりの意識が仕事観を変える
モノづくりは、流行や時代の移ろいを受けます。でも、だからといって「どうせ一時的なものだから」と手を抜けば、その浅さは案外すぐバレるものです。
段ボール棚という、自分だけの小さな作品を真面目に作ってみたことで、僕は「たとえ目立たなくても、丁寧に仕上げることが大切」だと感じました。
それは今、グラフィックやWeb等のデザインをする際にも生きています。クライアントによっては、すぐに別のデザインに切り替えるかもしれません。でも、その時点で最良の提案をすることは、後々の信用や技術力に繋がると信じています。
「一生使うつもりで」の真意
当時の上司が意図したことは、「モノづくりを甘く見るな」だったんじゃないかと思います。段ボール製とはいえ、棚を設計して作るという行為は、立派なデザインプロセスです。そのプロセスを軽んじれば、出来上がるものもそれなりの品質になる。
一方、「一生使うつもり」と背筋を伸ばしてかかれば、たとえ素人同然でも、自分なりに工夫や配慮が生まれます。その積み重ねが、後々のスキルアップやセンスの向上につながるわけです。
今も忘れられない初めての作品
あの棚は、結局会社を辞めるときに置いてきました。「一生使う」とはならなかったものの、その経験は僕の中で消えていません。
今、フリーランスで働いていても、時折厳しいクライアントや難しい案件に当たることがあります。でも、そのたびに「どうせすぐ使われなくなるかもしれない」と思わず、「一生使うつもりでやってみよう」と自分に言い聞かせています。
あの棚を通じて学んだのは、仕事における向き合い方そのものだったんだなと、今になってしみじみ感じます。
まとめ – 一生使う気持ちが心に残る
最初の仕事で段ボールの棚を作るなんて、当時は「こんなのに時間かけていいのかな?」と疑問でした。でも、その経験は、モノづくりへの真剣さ、細部への配慮、長く使えるものを生み出そうとする意識を育ててくれました。
結果として、ダサくて不格好だった棚は、僕にとっての原点。フリーランスになった今でも、あのとき培った姿勢がデザインをする手元に宿っています。
「一生使うつもりで」という言葉は、あの棚とともに、僕の中でずっと生き続けています。
僕が初めて入社した会社は、パッケージや什器の設計が中心業務でした。入社して初めての仕事は今でも覚えています。 【自分の仕事道具を収納する棚を設計して、作ること】 「一生使うつもりで作れ」と言われました。緊張したし、同期の方が遥かにセンスがあって…僕は酷かったです 笑 いい経験でした
X (Twitter) – May 8, 2020