私たちは日常生活のあらゆる場面で、無意識のうちに色から大きな影響を受けています。ブランドロゴやパッケージ、店舗の内装などに使われる「ブランドカラー」も、その一例といえるでしょう。実は、「なぜあのブランドには○○色が使われているのか?」という疑問には、色彩心理学やマーケティング理論が深く関わっています。
本記事では、ブランドカラーが顧客に与える印象や、マーケティング活動にどのような影響を及ぼすのかをご紹介します。色彩がもたらす心理効果を理解すれば、自社ブランドのイメージ戦略に活かすことができるかもしれません。
色の力がもたらすマーケティング効果
視覚情報のインパクト
人間は五感の中でも、特に視覚から多くの情報を得ると言われます。その比率は全体のおよそ8割にも達するとされ、最初に目に飛び込んでくるビジュアル要素は非常に重要です。ロゴや商品パッケージなど、「色」が与える第一印象が、ブランドの認知度や購買意欲に直結することは珍しくありません。
ブランディングと色彩心理学
ブランディングの観点からみると、色はブランドの世界観を端的に表現する最もシンプルな手段の一つです。たとえば、高級感を演出するブランドはモノトーンやメタリックな色を多用し、親しみやすさを重視するブランドはパステルカラーを選ぶ傾向にあります。これは単に「好き・嫌い」という個人的な好みだけでなく、色彩心理学の理論をもとに戦略的に設計されているからです。
基本的な色が与える印象
色の捉え方は文化や個人の背景によって異なる場合もありますが、一般的に「○○色といえばこんなイメージ」というものが存在します。ここでは、代表的な色とそのイメージをざっくりと見ていきましょう。
レッド(赤)
赤は「情熱」「エネルギー」「行動力」「危機感」を連想させる色です。主張が強く、視認性も高いため、セールのPOPやボタンデザインに多用されます。レストランなど飲食業界では、食欲増進の効果を期待して赤を取り入れることもあります。一方で、過剰に使いすぎると「刺激が強すぎる」と感じられることがあるため、バランスが大切です。
ブルー(青)
青は「冷静」「知性」「信頼」「誠実」をイメージさせる色です。銀行や保険会社、IT企業のロゴに青がよく使われるのは、安心感を与える特性を重視しているからだと考えられます。また、青には集中力や作業効率を高める効果があるという説もあり、学習塾やオフィス環境での導入例も見られます。
グリーン(緑)
緑は「自然」「調和」「リラックス」「健康」を連想する色です。エコやオーガニックといったテーマに結びつきやすく、環境に配慮している企業や健康食品関連のブランドに好まれます。緑は疲れた目を休ませる効果があるとも言われ、リラックス空間を演出したい場合に取り入れると良いでしょう。
イエロー(黄)
黄は「明るさ」「元気」「好奇心」「注意喚起」をイメージします。子ども向けの商品や学習玩具のパッケージに用いられることが多いのも、このカラーが持つ活発なイメージが理由です。また、注意を促したり警戒させたりする目的で使われる場合もあり、交通標識にイエローが多いのはその代表例です。
ブラック(黒)
黒は「高級感」「権威」「洗練」「強さ」を象徴します。シャープでクールな印象を与えるので、高価格帯の商品を扱うブランドにも多く見られます。ただし、多用すると「冷たさ」「閉鎖的」といった否定的なイメージを与える可能性もあるため、配色バランスに気を配る必要があります。
ホワイト(白)
白は「清潔感」「純粋」「シンプル」「開放感」を感じさせます。余白を大きくとった白基調のデザインは、ミニマルでスタイリッシュなブランドイメージを作り出しやすいです。医療・美容系のブランドでは、清潔感を重視して白をメインカラーにしているケースが多く見られます。
ブランドカラーを選ぶ際のポイント
ターゲットとブランドパーソナリティの一致
ブランドカラーを選定する際に重要なのは、ターゲットとブランドのパーソナリティをしっかり理解することです。どのような顧客層を想定しているのか、あるいはブランドがどんな性格を持ち、どう見られたいのかといった点を踏まえて色を決めると、ブランドイメージが顧客の心に強く残ります。若々しくポップなイメージを打ち出したいならビビッドなカラーを、高級感や専門性を打ち出したいなら落ち着いたトーンを取り入れるなど、方向性に沿ったカラー選びが大切です。
競合との差別化
同じ業界の競合企業がどのような色を使っているのかも、ブランドカラー選定の際に外せない視点です。例えば、同ジャンルで赤をメインにしたブランドが多いのであれば、あえて青や緑を使うことで差別化できる可能性があります。逆に「同じ赤でもトーンを変える」「赤×白などの組み合わせで新鮮に見せる」といった工夫で、他社との差を出す方法もあります。
多様な利用シーンを想定する
ブランドカラーはロゴだけでなく、ウェブサイトや広告、店舗内装、商品パッケージなど、実に様々な場所で使われます。その際、印刷物とデジタルメディアでは色の見え方が異なることも考慮しなければなりません。また、大きい面積で使用したときと、小さいポイントで使用したときでは印象が変わることも多いです。あらゆる利用シーンでイメージが崩れない色設計を行うことが大切です。
ブランドカラー戦略の成功事例
ここでは、実際に印象的なブランドカラーを活用している企業の例をいくつか挙げてみます。
コカ・コーラ(赤)
・コカ・コーラのロゴ / ozmen – stock.adobe.com
コカ・コーラといえば、真っ赤なロゴが世界中で認知されている代表格です。コカ・コーラの赤は「情熱」「活気」を象徴し、見る人にエネルギッシュな印象を与えます。赤いブランドカラーが多くの人の目を引き、「飲みたい」という欲求をも刺激していると言われます。
スターバックス(緑)
・スターバックスのロゴ / ltyuan – stock.adobe.com
スターバックスの緑は、コーヒーの産地である自然との結びつきや、リラックス空間を想起させる色として巧みに活用されています。緑がもつ「癒し」や「やすらぎ」のイメージと、店内のゆったりした雰囲気が合わさることで、顧客が長居したくなる空間づくりに成功しています。
ティファニー(ティファニーブルー)
・ティファニーのロゴ / Erman Gunes – stock.adobe.com
ティファニー独自の「ティファニーブルー」は、どのブランドともかぶらない特別な水色として有名です。まさにブランドを象徴する色であり、洗練された高級感を演出しています。商品箱を開ける前から「特別感」を味わえるため、贈り物としての価値が一層高まっているのです。
カラー戦略を活かすためのヒント
ブランドコンセプトの明確化
まずはブランドコンセプトを明確にし、それに合う色を抽出するステップが重要です。「顧客にどんな感情を抱いてもらいたいか」「どんなシーンで使ってもらいたいか」といった問いを掘り下げることで、ブランドカラーを決める基準が明確になります。
継続的な検証と修正
一度カラーを決めたら終わりではなく、市場の反応を見ながら微調整を行う柔軟性も必要です。ターゲット層の変化やブランドの進化によって、当初のカラーがしっくりこなくなる場合もあります。定期的にアンケートやSNSでの声を確認し、必要に応じて色味を微調整するなどの取り組みを行うと良いでしょう。
組み合わせや配色の重要性
単色の利用だけでなく、複数の色を組み合わせる配色設計にも注意が必要です。メインカラーとサブカラー、アクセントカラーを組み合わせることで、ブランドの世界観に奥行きを生み出すことができます。ただし、あれもこれもと色を増やしすぎると混乱を招きやすくなるため、最大でも3色程度に絞るのが一般的です。
おわりに
ブランドカラーは、顧客に瞬時にイメージや感情を伝えることができる強力なコミュニケーション手段です。色の印象は無意識のレベルで消費者の購買行動やブランド認知度に影響を与えます。そのため、ブランドコンセプトやターゲット、競合他社との差別化を考慮しながら色を戦略的に決定することが重要です。
一度決めたカラーを軸に、ロゴやWEBサイト、SNSの投稿デザインまで一貫したトーン&マナーを貫くことで、ブランドの認知とファン化が促進されるでしょう。ぜひ本記事で紹介した色彩心理学の基本や事例を参考に、自社のブランドカラー戦略を検討してみてください。色というシンプルな要素を活かすことで、ブランドイメージをさらに引き立てることができるはずです。
※色が与える印象や影響には個人差があり、国や環境・文化背景などによっては持つ意味や受け取るメッセージが異なる場合もあります。
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