日々の生活にすっかり浸透した絵文字。英語でもEmojiと表記され、言葉以外の気持ちを補うのに便利なコミュニケーション手段と言えます。今回はAdobeに勤務し、絵文字エバンジェリストであるポール・ハント(Paul Hunt)氏のインタビュー記事をご紹介したいと思います。
原文 : “Gender Legibility in Emoji”
以下翻訳内容です。※翻訳・掲載は記事製作者の許諾を得ています。(Thank you, TypeThursday ! )
絵文字の性別について
タイプデザイナー、絵文字エバンジェリストであるポール・ハント(Paul Hunt)氏へのインタビュー
絵文字は一種のタイプフェースです。しかし、絵文字のデザインにはアイデンティティと性別に関する新たな問題が存在しています。今週のType ThursdayのインタビューではAdobe Typeのポール・ハント氏とともに、どのように絵文字の複雑なアイデンティティと性別をデザインするのかについてディスカッションをしました。
TypeThursday(以下TT):ポール、今日は来てくれてありがとう。
ポール・ハント(以下PH):イエーイ!タイプ(=文字)万歳!😄🙌
TT:皆タイプ大好きですからね。今日は、あなたの大好きな絵文字についてお話を聞かせてもらいたくてご招待しました。ツイッターでの活動は全て拝見させてもらっています。ます最初に、タイプデザインをすることになったきっかけについて教えてください。
ポール氏とタイプフェースデザインの出会い
PH:私は大学を退学させられてしまったので、地元の新聞会社でフルタイムで働き始めました。正確に言うと、私が生まれ育った場所の近くのアリゾナ州のウィンスローでした。Macの使い方を知っているから雇ってくれたんです。広告デザインを担当したのですが、すぐにタイポグラフィと恋に落ちました。幼いころからずっと興味があったのです。
それからTypophileというコミュニティを知りました。2000年初期はまだ活気のあるコミュニティでした。色々な人と知り合ってタイポグラフィとタイプフェースデザインについて可能な限り多くのことを学ぶことができ、それからは独学でそれぞれの制作についても学びました。OpenTypeのプログラミングを独学で学んだのですが、そのおかげでP22 Type Foundryでのインターンシップが決まったんです。3か月ほどのインターンシップの予定だったのですが、結局次の3年間をそこで過ごすことができました。それで、もう学ぶことは全て学んだと思ったのでレディング大学でタイプフェースデザインの博士課程を学ぶことにしました。
博士課程を修了した後、幸運にもAdobeの新卒プログラムに採用されました。過去のP22での経験と当時Adobeが力を入れていたノンラテンタイプのタイプフェースデザインへの強い興味が大いに評価され、タイプチームの一員に選ばれたのです。現在Adobeでの勤務歴は7年になりますが、とても楽しい7年です。
TT:タイプフェースデザインをするきっかけでお話されていましたが、なぜ大学を退学させられてしまったのですか?
ポール氏のアイデンティティとの関係
PH:私は同性愛者なのですが、モルモン教であるBrighan Young大学では同性愛者であることと在学中に性行為に及ぶことが禁じられていました。しかし、当時の私は性的に活発でしたから😂それで退学になったんです。恥をかいてしまいましたが…それをきっかけに自分の物事の見方が形どられたし、絵文字と性別についての見方や自分の過去を話すにあたってとても重要なこととなりましたね。
TT:あなたの性別というトピックに対しての強い関心はそんな過去からきているのですね。自分のセクシャルアイデンティティを拒否されるのはとてもショックなことだったでしょう?
PH:モルモン教でゲイとして思春期を過ごして、その二つのアイデンティティが衝突しながらも自分を受け入れようとしていましたし、今でもどこかでまだ受け入れようとしているかもしれません。自分のアイデンティティに疑問を抱き、それがどういう意味なのかを問わねばなりませんでした。それから、アイデンティティとそれの持つ意味、そして私たちがどのようにして自分のアイデンティティを作り上げているのかについて深く興味を持つようになりました。
それに関係することの一つが性別です。個人のアイデンティティの最も基盤となる要素が性別です。とても重要なコンセプトなのにも関わらず、私達は時に性別に対してのリスペクトを忘れてしまいがちです ― 特に恵まれた白人男性に多いと思います。私たちは自分の興味のあることに向かって人生が動いていてそれが当たり前だと思ってしまうため、自分たちのことを、普通、平均、どこにでもいるような人間だと思いがちです。しかし、そうでない場合だってあるのです。
TT:あなたは自分の過去の経験によって「普通であること」が自分に合っていないと気づいたのですね。
PH:私は恵まれている白人男性ですが、自分がゲイであるということが衝撃的でした。その衝撃がきっかけで、誰しも自分に対して感じる衝撃があるのだろうと思うようになりました。残念なことに、未だに女性が対等な扱いを受けていなかったり、先住民の文化に十分な敬意が払われていなかったりする時代ですから、Unicodeの男女同権を主張し続けることで自分のアイデンティティをよりうまく伝えることができるツールを提供できたらいいと思っています。それが私のモチベーションの原点ですね。
アンドロジナス(性の差異を超えた自由)な表現
TT:ポール氏は、人型の絵文字デザインの表現について、アンドロジナスな表現を提案しましたね。それについてもう少し詳しく効かせてもらえますか?
PH:もちろんです。現在、世の中の多くの人が知っている性別はバイナリージェンダーをベースをしています。つまり、男性もしくは男らしい👨、または女性もしくは女性らしい👩という二つのどちらかとして性別を認識するのが普通とされています。それらのどちらかでは自分を表現したくない人や、二つの間として自分を認識している人、もしくは性別というものを自分の重要なアイデンティティとして選びたくない人たちのことを考えていないのです。
Unicodeの絵文字小委員会にジェンダー表現についていくつか案を出しました。全ての絵文字のデフォルトの性別はエイジェンダ―(無性別)にすべきと主張しました。よく見る笑顔の絵文字のような、抽象的な人の顔にすべきなのだと。他の全ての絵文字がこの絵文字のように扱われれば、そもそも性別を決定する必要などなくなるのです。私の二つ目の提案は今最も注目を集めているのですが、三つ目の曖昧なジェンダーもしくはアンドロジナスを既存するバイナリージェンダーの絵文字に追加することです。例えば、男性、女性、アンドロジーン、男の子、女の子、性別が決められていない子供、など。
TT:絵文字に性別が割り当てられていると、人々が特定のバイアスや先入観を持ってしまいますよね。あなたはこれをコミュニケーションとデザインにおけるバイアスや偏見の問題としてとらえているのですね。
絵文字デザインにおけるバイアスと偏見
PH:その通りです。現在の大手ベンダーの絵文字には、性別を男尊女卑でバイナリーな見方で捉えている絵文字が含まれています。Unicodeの女性たちが自分たちの性別の表現を見直してほしいと主張し始めたことがきっかけでした ― 仕事においてももっと多くの女性に活躍してほしいという主張でした。ポリスマンの絵文字が男性でなければいけない理由などないですよね。ポリスマンもポリスウーマンもいますからね。さらに言えば、ポリスマンやポリスウーマンだけでなく、ポリスオフィサー(警察官)の絵文字も存在すべきです。でも、その絵文字の性別が何なのかという疑問が生まれます。
TT:ある絵文字の性別がどう認識されているのかを調査したアンケートがありましたね。これを私は「絵文字の性別認識」と呼んでいますが、これについてどう思いますか?
PH:これは私の性別についてのリサーチから派生したものでした。ワシントン州のレッドモンドで行われたUnicodeテクニカル小委員会のミーティングで、曖昧なジェンダーの絵文字をプレゼンしました。委員会のメンバーからのフィードバックでは、私の創ったアンドロジナスな絵文字が男性的に見えるとの意見がありました。私はこれについてデータ的な要素が欲しくなり、より多くのユーザーを対象にオンラインアンケートを実施しました。絵文字を単体で評価できるようにして、1が最も男性的、7が最も女性的な評価、アンドロジナスであればその間の数字つまり4として1~7までの評価をしてもらいました。結果はとても興味深いものでしたので、近い将来に記事としてまとめて公表できれば良いと思っています。もし今その結果について知りたいことがあればお答えしますよ。
TT:是非!その結果から何がわかりましたか?
性別認識アンケートの結果
PH:結果からはいくつか興味深い発見がありました。一つは、全ての絵文字が基本的に男性的と認識されている傾向が多少なりともあったことです。抽象的な「スマイリー」の絵文字でさえも、男性的に見られている傾向がありました。その中でも特に、カウボーイハットをかぶったスマイリーはとても男性的と認識されていたようです。これは、特定の絵文字が男性から想像される要素をより多く含んでいることがわかります。もう一つ興味深かったのが、目がハートになっているスマイリーです。これは特に女性的とみられていることがわりました。抽象的な絵文字であっても、私達の文化に根付いている男性と女性の印象が影響しているということはとても興味深いです。
これらの十分な裏付けを元にアンドロジナスな絵文字をデザインしてみましたが、私のサンプルはとても大きいものでした。通常の絵文字サイズではなく大きな顔だったのです。そのせいで、少しリサーチに歪みが出てしまったかもしれません。
しかし、更に大きな問題は、私が作った男性の絵文字が曖昧なジェンダーとして認識されたことでした。この理由について考え、情報をいくつか集めたのですが、私の持っている男性の印象には口ひげがないのです。男の子の絵文字は、男性の絵文字の小さいバージョンでした。口ひげはもちろんないのですが、頭の毛もないのです。このため、とても曖昧なジェンダーとして認識されたようです。しかし、絵文字に口ひげを足した途端にその絵文字がとても男性的に見られるようになり、男性の絵文字として認識されました。これは私が作った絵文字の中で最も男性的なものだと思います。まとめると、人々にはアンドロジナスな絵文字を男性的なものだと思うおかしな傾向があるのですね。これは、どこにでもいる人を表現するときに男性的な描写を使っていることを意味します。
しかし現実では、あなたと私は髭を生やした男性です。口ひげは今の流行ですが、口ひげを生やすことはとても男性的なシンボルだと思います。残念ながら私は、男性の絵文字を中性的にしすぎてしまったのですね。アップル社の最新の絵文字は、男性の絵文字のほとんどが口ひげを生やしていません。しかし、アップル社の初期のデザインを見ると、最初に作られた男性の絵文字は髭を生やしているんですよ。
それに、男性の絵文字をより非男性的にする傾向はフェアではないですよね。女性の絵文字はものすごく女性的に作るのに。長い髪に、女性的な目。リップスティックを塗ったような唇にしたり、髪にリボンや髪飾りをつけたり。男性や男の子の絵文字には無いと思うものを女性の絵文字にはとことん使うのです。これは、男性はどこにでもいる人を表しているというジェンダーバイアスを強調しているだけであり、私達はこれから遠ざかる必要があります。ステレオタイプたっぷりの男性的なものを選ぶ権利があるなら、同じようにとても女性的なものを選ぶ権利だってあるはずですし、どちらでもないアンドロジナスなものを選ぶ権利だってあるはずですよね。でも、絵文字はデフォルトとして無性別として描写されるべきです。
認識の境界線
TT:タイプデザインは最も保守的な芸術の一つとして知られていますね。タイプデザインは現代と歴史上の両方において読みやすい範囲の中に収まらなければなりません。例えば、Hという文字がHという文字でなくなってしまうことはあってはならないのです。
PH:そうですね。タイプデザインについていくつか比較をしてみたら、道教思想のような複雑なコンセプトと結びつくと思ったんです。太極図のシンボルを知っていますか?
TT:はい。
PH:これは陰と陽、または男性と女性を表すシンボルですが、二つの要素があって初めて一つのシンボルとなりますよね。こういった二元性一元論はヨーロッパ哲学でも見られますが、実はタイプフェースデザインでも見られるのです。タイプデザインの過程について考えてみると、実際には文字を使ってモノクロの画像を作っていますよね。文字は、カウンタースペースとストロークによって互いを認識可能にします。これらは近くて見たときに重要ですが、遠目で見たときに「グレーバリュー」というものが重要になります。テキストの集まりを見たときに、読み手が心地よく感じる程度のグレートーンがあるのが理想です。
太極図のシンボルを考えた古代の中国人は、陽を表す白い部分を男性、陰を表す暗い部分を女性例えましたが、それら二つが合わさり1つのものになります。私は、これは誰にでも共通することだと思っています。誰にでも男性らしい部分と女性らしい部分があります。それらを異なる比率で混ぜ合わせて、自分の中でのバランスをとることができたなら、私達は単なる男性や女性ではなくなり、人となるのです。私はこの哲学的な思想をタイプデザインや絵文字、そして性別に応用しようと試みました。これらは私が考える上では、関連しています。そして今、この考えをより多くの人々と共有し、それが彼らにとっても同じなのかが見てみたいのです。
TT:今日のこのインタビューも、誰かのそういった考えの役に立つといいですね。
PH:私もそう思いますし、このインタビューを通じてこういった考え方を広め、人々がより共感できるようにする良い機会になればよいと思いました。
TT:ポール、今日は本当に良いお話を聞けました。ありがとう。
PH:こちらこそ。ありがとうございました。
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