アンチウイルスソフトのアバスト(Avast)が、9月にロゴをリニューアルしました。アバストは、ノートンやカスペルスキー、マカフィーなどとともに、世界中で数多くのユーザーを持つ老舗ブランドです。ここ10年ほど、アメーバを思わせるオレンジのシンボルマークが使われてきましたが、それに代わって、オレンジの円の中に、白い菊の花びらのようなエレメントが並んだデザインとなりました。ワードマークも一新されています。
monticellllo – stock.adobe.com / avastの旧ロゴデザイン
シンプルでバランスのとれた新ロゴデザイン
Novo Logo da Avast! https://t.co/PMt8T5iInh
— Dieggo Lima (@limadieggo) September 21, 2021
すでに公式サイトなどでも使用開始されている新しいロゴは、シンボルマーク、ワードマークともにシンプルでミニマルなデザインです。
ワードマークは、「Helvetica」や「Neue Haas Grotesque」などに似たサンセリフ書体フォントで組まれています。それぞれの文字の末端には緩やかなアールがつけられているので、やわらかい印象です。シンボルマークと並べても、ワードマークが立ちすぎるということがなく、よく調和しています。
シンボルマークは、オレンジの円の中に、菊の花びら、または細長い水滴のような図形が4つ並べられています。左下から徐々に大きくなりながら、全体でブランド名の頭文字である大文字のAを形作っています。
アバスト社の公式ブログによると、オレンジの円は、人間らしさ(humanity)と楽観主義(optimism)の表現であり、さらに同社がユーザーに提供している「保護(protection)」を表しているということです。また、円の中の白いエレメントは、同社の技術革新はとどまることなく続けられていることの象徴であるとしています。
その説明を受けて、あらためてシンボルマークを見てみると、外敵に対する壁の断面のようにも見えます。あるいは、「保護」「守り」の象徴である「盾」をモチーフにしたのかもしれません。
基本的な構成だけ引き継いで大きく変わったロゴデザイン
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— Avast (@Avast) September 18, 2021
先代のロゴと見くらべてみると、ごく基本的な視覚的構造は引き継がれているのがわかります。オレンジに白抜きのシンボルマークと濃いグレーのワードマークという点は変わっていません。オレンジの色も同一です。これらによって、全体的な印象が継承されているように思えます。逆にいうと、それ以外は大きく変わっています。
まず、シンボルマークのアメーバ状の外形は真円に、白ヌキのアルファベットは、小文字のaから大胆にデザイン処理された大文字のAに変更されました。ワードマークも頭文字Aが大文字化され、全セクションで触れたように書体も変わっています。わずかに青みを帯びたグレーも新デザインでは濃くなっています。
親しみやすさよりも信頼性を優先?
どこか生き物っぽいフォルムのシンボルマークと、小文字だけのワードマークという先代ロゴに対して、パーフェクトな図形である真円と、技巧的なデザインのアルファベット、大文字Aの新しいロゴデザイン。ずいぶん印象が異なります。
ワードマークは新旧ともにサンセリフ系が使われ、モダンなデザインです。ただ、先代ロゴは末端が丸くなった、やわらかい書体です。それに比べると新ロゴは、きまじめで「正統な」印象を与えるといえるかもしれません。
個性的で印象に残る先代のシンボルマークは、個人所有のパソコンにマッチしています。新しいロゴは、シンプルですっきりしたデザインですが、個性という面ではやや弱まったように思います。アバストがソフトウェアのブランドであることを知らなければ、銀行やメーカーのロゴだと勘違いするひとがいたとしても、それほど驚くことではないかもしれません。オフィスで使うクライアント端末などにはふさわしいと言えます。
今年8月にノートンライフロック社が吸収合併
2021年8月に、米ノートンライフロック(NortonLifeLock)によるアバスト社の買収が発表されました。ノートンライフロック社は、1991年にリリースされた、代表的なアンチウイルスソフトである「ノートンアンチウイルス」を提供しているアバストのライバル企業でした。この合併によってユーザー数は5億人を超えるとされています。買収完了は2022年の見込みです。
ロゴリニューアルは、この企業統合を受けておこなわれたものではない、ということですが、ターゲットに対するメッセージの見直しがあったことは確かです。
ロゴリニューアルと同じタイミングで、「Avast One」という統合セキュリティのあたらしいソフトをリリースしています。また、デジタル上の権利保護と弱者支援のための慈善団体「Avast Foundation」を設立。ひとびとのプライバシー保護を第一に考え、ネットワーク監視、プライバシー、AI、暗号化テクノロジーなどに積極的に取り組んでいく、というメッセージも発しました。
インターネットの現状をわかりやすく伝える動画
Avast – It’s time to reset your relationship with the Internet.
It’s time to reset your relationship with the Internet
アバストは、「インターネットとの関係をリセットすべき時です(It’s time to reset your relationship with the Internet)」というプロモーション動画を公開しています。
そこでは、心理療法のグループセラピーなどのように、問題をかかえたひとたちがそれぞれの体験を語り合うシーンが描かれています。司会は、擬人化された人工知能「AI」。同じく擬人化された「インターネット」を囲んで、ひとびとの悩みを語り合おうという集まりです。
インターネット氏はごきげんですが、ほかの参加者は不満を抱えています。以前は良い関係だったが今は信用できない、クレジットカードや銀行口座情報が盗まれた、なりすまし被害にあった、ウイルスをもらった…などなど。
いまのインターネットは以前とは状況が変わってしまったので、付き合い方を見直すべき時が来たというわけです。そして「アバストがオンラインでの安全とプライバシー管理を手助けします」というメッセージです。
アンチウイルスソフトの老舗(しにせ)
インターネットの原型といわれるARPANET(アーパネット)が構築されたのが1969年です。核戦争下でも耐える通信網として米国防総省が研究を進めたものでした。80年代になると、世界規模のTCP/IPネットワークの名前として「インターネット(Internet)」が使われるようになります。インターネットは90年代に爆発的に普及し、研究教育機関や一部の企業だけでなく、現在のように個人でもインターネットを利用できるようになりました。
コンピューターウイルスに対応するためのソフトウェアである「アンチウイルスソフト」は80年代中頃に登場します。ウイルスを退治することから、当時は「ワクチンソフト」と呼ばれることもありました。
アバスト・ソフトウェアは、1988年にチェコ共和国のプラハでALWIL共同組合として設立。民主化後の1991年に企業として始動しました。2010年に企業名を「Avast」に変更。2016年には、同じくチェコのサイバーセキュリティ企業AVGを買収します。そして、2021年にノートンライフロックに吸収されました。
【参考資料】
・Enabling and Empowering Digital Citizens | Avast (https://blog.avast.com/brands-fundamental-truths-avast)
・Avast – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Avast)
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