2019年11月8日(現地時間)に欧州のオランダ政府の公式サイトでオランダ王国の新しいロゴが発表されました。これまでオランダ政府観光局が使っていたチューリップと「Holland」を組み合わせたロゴに代わって、各省庁や大使館、オランダ企業局などが2020年1月から新ロゴを使用を開始するとのことです。大学など教育機関やスポーツ団体、政府のプロジェクトに関わる企業も使えるという新しいロゴについて見てみましょう。
「NL」とチューリップが合体したシンボルマーク
Today on Brand New (Noted): New Logo for Netherlands https://t.co/aoBJvLccj9 pic.twitter.com/JOIBxkW53W
— UnderConsideration (@ucllc) November 11, 2019
今回発表されたロゴのシンボルマークは、「NL」のモノグラム(右)です。NとLのタテの線の一部がふくらみチューリップの花を形作っています。「NL」は主な団体で採用されているオランダの国名コードです。たとえば、URLで日本のドメインが「.jp」となっているようにオランダのドメインは「.nl」です。このモノグラムの横には「Netherlands」(ネザーランド)という英語名が添えられています。色はオランダのナショナルカラーであるオレンジです。
オランダ政府観光局のサイト(holland.com)などで使われているロゴ(左)はチューリップのシンプルな絵と「Holland」という文字の組み合わせになっています。絵の具をたっぷり含んだブラシを使ってフリーハンドで描いたかのようなデザインです。新しいロゴにもチューリップは引き継がれていますが、「Holland」のワードロゴが「Netherlands」に代わります。
オランダ王国の統一ブランディング
オランダといったら何を思い浮かべるでしょうか。チューリップ、風車、運河。ゴーダチーズ、エダムチーズ、クロケット。サッカー、バレーボール、自転車競技、スピードスケート。ハイネッケン、ロイヤル・ダッチ・シェル、ユニリーバ。アンネ・フランクの隠れ家。ブルーナ、ゴッホ。よく知っているものにオランダ由来の事物は意外と多いものです。
オランダ政府の公式サイトに貿易・開発協力相シフリット・カーフ(Sigrid Kaag)大臣のコメントが乗せられています。
「新しいロゴは、ハイテクから農業食品、スポーツから文化まで広い分野にわたって利用できます。国際社会における明快なイメージは我が国の輸出のために、そして投資や人材の誘致のためにプラスに働きます」
干拓で国土を広げたことで有名なオランダの面積が日本の50分の1程度であるにもかかわらず農産物輸出量は世界第2位を誇ります。LED照明をAIでコントロールするなどハイテクを駆使した効率的で持続可能な農業がその秘密です。また、世界最大規模の宿泊予約サイトBooking.com(ブッキングドットコム)もオランダで起業されました。
どちらかといえば素朴なタッチの既存の観光局のロゴは、絵画などを思い起こさせる親しみやすいデザインですが、このように多面的なオランダ王国のさまざまな分野をまたいで統一して使うにはふさわしくないという判断なのでしょう。
東京2020でも新ロゴを使用予定
2020年にロッテルダムで開催される「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」(Eurovision Song Contest)でも新しいブランドが正式に使われる予定です。ユーロビジョン・ソング・コンテストは毎年1回開催されている国別対抗で歌を競う大会です。欧州のみならず世界各国で放送されています。また、東京オリンピックでも新しいブランドが全面的に採用されるということです。
オランダの正式国名はネーデルラント王国
では、今回のリブランディングで、国名表記をHollandからNetherlandsに代えるのはなぜでしょう。その理由を理解するために、まず国名の発音、つぎに国の呼び方についてざっくりと整理してみましょう。
オランダ語の「Holland」はカタカナにすれば「ホーラント」または「ホラント」といった発音になります。英語では「ホランド」に近いです。なぜ日本では「オランダ」と呼ぶのかというと、オランダ人よりも先に日本を訪れていたポルトガル人からボルトガル語の国名「Holanda」(頭のHは発音しない)が伝わったからです。ですから日本式の「オランダ」はポルトガル人には通じるかもしれませんが、オランダ人にはわかってもらえないというわけです。
次の「Netherlands」の方ですが、オランダの正式名称は英語で書くと「the Kingdom of the Netherlands」なのです。オランダ語のスペルは「Nederland」で、オランダ式の発音は日本では「ネーデルラント」(またはネーデルランド)と表記されます。つまり、正式国名は日本語にすれば「ネーデルラント王国」となります。16世紀末から18世紀末までネーデルラント連邦共和国が存在していて、構成する7つの州のひとつがホラント州でした。ホラント州は政治・経済・文化の中心地であったため、ネーデルラント連邦共和国を各国がそれぞれの言語で「ホラント」、つまりホランドやオランダと呼ぶようになったのです。オランダ本土には12の州があり、現在のホラントは北ホラント州と南ホラント州に分かれています。
日本ではネーデルラントがあまり浸透していないためか、オランダ政府観光局のサイトでも「the Kingdom of the Netherlands」の日本語訳は「オランダ王国」となっています。
アムステルダムのオーバーツーリズム問題
現在、オランダ企業局(Netherlands Enterprise Agency)のサイトではオランダ観光局と同じロゴが使われています。これが新しいロゴに置き換わることはアナウンスされましたが、オランダ観光局のロゴと「holland.com」はどうなるのか今のところ詳細はわかりません。
本来一部地域の名前であった「Holland」を正式名称の「Netherlands」に変更することについては、ある程度は納得できます。国をあげてのプロジェクトなどで正式名称と通称が混乱や誤解を招くことは十分にありうることで、コミュニケーション効率の点でもメリットがあるでしょう。しかし、海外からの観光客を呼び込むことを考えると、長い年月を経て通称として浸透している「Holland」を捨てることが果たして得策なのだろうか?という疑問も生じます。
実際、オランダの観光名所はホラント地方に集中しています。特に人口85万のアムステルダムには1年間に1600万人もの観光客が押し寄せています。京都やローマなどの観光地で問題になっている「オーバーツーリズム」、つまり観光客の許容量を超えた訪問による過剰な混雑状態が生じているのです。アムステルダム中心部での宿泊、ホテル建設の禁止など観光局はさまざまな手を打っていますが、2019年5月に観光局はアムステルダムへの積極的な観光プロモーションはおこなわないと決めました。
ですから、「Holland」が連想させるアムステルダムを中心とした従来からの観光のイメージを「Netherlands」で刷新することも新しいロゴに期待されているのかもしれません。
4つの国で構成される王国
ネーデルラント王国は4つの国から構成されています。4つの国とは、欧州大陸のネーデルラント本土とカリブ海の3つの島国、アルバ、キュラソー、シント・マールテンです。それが正式国名がNetherlandsと複数形になっている理由です。さらに、構成国としてのネーデルラント本土は、やはりカリブ海にボネール島、サバ島、シント・エウスタシウス島という特別自治体を持っています。
キュラソーの首都「ウィレムスタット」(Willemstad)は世界文化遺産に登録されています。
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