商品やサービス、企業のイメージを象徴し、グラフィカルに表現するロゴマーク。皆さんはどのような手法を用いてこのロゴマークをデザインされますか。 一目見ただけで鮮明に記憶に残る図柄を形成するには、まず商品や企業の特色を顕著にロゴに反映させるためのモチーフ選びから始まり、形そのものやサイズ・レイアウトの構成、カラーリングや書体の選択など、綿密に思考していくことが必要です。 どのようなモチーフを採用して企業のイメージを伝えていくべきなのかがロゴデザインの基盤ですが、研究所やテクノロジー関連の企業、または製造業社など、その分野に特化した業務を担う団体のロゴマークは、製品の製造目的や研究理念を起源とした模様を使用すると効果的です。
今日は、企業理念や方針をシンプルで洗練された幾何学的な形態に置き換えながら、アピール度の高いロゴ作品を多数デザインしている Mohamed Samir 氏の作品を紹介します。Mohamed Samir 氏はアラブ首長国連邦を構成する首長国の一つであるドバイに拠点を置くクリエイティブデザイナーです。イギリス・ロンドンのIDI(Interactive Design Institute)によりドバイのトップ10デザイナーに認定されたデザイナーで、個性的で独特なグラフィックデザイン・イラストレーション・カリグラフィーをセンスよく統合しながら、クライアントの要求に合致した革新的な作品を発表しています。 数々の作品が、AIGA (American Institute of Graphics and Arts)やSAIC(School of Arts in Chicago)に紹介されている、現代グラフィック界の新進デザイナーの一人です。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Mohamed ! )
無限の可能性を示唆するスタートアップ企業のロゴデザイン作成例
はじめに、『Vortex events』のブランディングデザインを見てみましょう。 Vortex Eventsは、新しく未来的なイベントの立ち上げや管理をドバイにもたらすことに重点を置くスタートアップ企業です。各種展示会を専門とする経験豊かなデザイナーやプロジェクトマネージャーで構成され、中東を中心に、企業のイベント参加をあらゆる視点から補佐する業務を担う会社です。対象となるイベントは、エンターテイメント系からファッション・ライフスタイル・スポーツ・研究・教育など無限に渡り、きめ細かいプロフェッショナルなサービスの提供を試みています。
Mohamed Samir氏は、イベントマーケットに参入するための革新的なブランド構築の依頼を受けました。
Vortex Events社の頭文字『V』と、「誠実なサービスを遂行することでクライアントとのポジティブな連鎖や利益の循環を施し、果たしてはドバイの活性化を計る」という Vortex Events社の理念、そしてVortex Events社の無限の可能性を示唆する図柄が、ロゴのデザインを形成するモチーフに採用されました。
この三つの要素を組み合わせて出来上がったのは、カラーリングに青色を使ったモノラインでシンプルに構成されたロゴマーク。爽やかさやクリーンさ、安心感や信頼感を見る人にイメージさせる青色の使用は、Vortex Events社のような新興企業のコーポレートカラーには最適の選択と言えます。
ロゴマークのデザインに続いて行われたのはアルファベットのロゴタイプや名刺・レターパッド・バック・リーフレットなどのあらゆる媒体へのデザイン展開です。
これらの媒体には、ロゴマークの基本色である青色に加え、サブカラーとして紫色を採用。高貴かつ神秘的で感受性の高いイメージを施し、ファッションやデザイン・音楽・演劇などの芸術系分野で採用されることの多い紫色を、基本色である青色とバッティングしないよう、それぞれの塗り面積を巧みに考慮しながらデザインされています。
各媒体にアクセントとして使われるロゴマークから派生して作られたパターンの構成も、とても興味深いものに仕上がっていますね。
ドバイで行われる毎月の出来事を伝えるVortex Events社の一連のポスターにも、Samir氏の一貫したデザインポリシーで構成されており、総合的なブランディングデザインが展開されています。
強靭かつ精密な工具メーカーのロゴデザイン・ブランディング事例
次は『Acribia』のブランディングデザインです。
Acribia社は、高品質な精密工具の製造・販売を担う中東の代理店です。 世界の他の競合企業と際立たせるための新しいブランド形成のプロジェクトをSamir氏が担当しました。
Acribia社のパーソナリティー性を前面に押し出すためにSamir氏がデザインコンセプトとして挙げたのは、ドイツ精神を持って製作される強靱で精密、かつ大胆な重工業機器を取り扱う会社であることブランドに反映させることです。 この考えにマッチするように、ロゴのデザインにはAcribia社が誇る高精度切削工具のパーツの一部がモチーフに採用されました。
カラーリングには、力や独立性、そして真摯性を彷彿させる黒色をメインカラーとして使用。名刺やレターパッド、リーフレットなど全てのデザイン媒体は このロゴの醸し出す雰囲気に協調して、モノクロームで洗練されたテイストに仕上がっています。
名刺の中のロゴには、あたかも高精度切削工具によってすぱっと切り抜いたようなカッティングが施され、こちらもAcribia社の特色を表現しています。
中東の医療分野をリードする企業のロゴデザイン・ブランディング事例
次は『SURGITECH (healthcare solutions)』のブランディングです。
SURGITECH Healthcare Solutions 社は1990年に設立された中東の医療分野のリーディングカンパニーです。世界的なヘルスケアの展示会や会議を主催し、専門家向けのセミナーやワークショップ、トレーニングセッションの開催を担っています。
ロゴのデザインに用いられたモチーフはSURGI – TECHの二つの頭文字である「S」と「T」。それに、小さな擦り傷から大きな手術に至るまで全ての医療業務で使用される医療用絆創膏の様相を組み合わせて構成されています。
多数の正円と直線をベースに、幾何学的な体系でSとTを抽出し、絆創膏の薄く柔らかいテイストをグラデーションで表現しながら組み込んだロゴに出来上がっています。 メインのカラーリングには青色と赤色を採用。この二色を起点として生まれるグラデーションを幾何学形態の中に落とし込んだロゴマークです。
一般的に、自由な形状で装飾を施したロゴマークは見る人に親近感をもたらしやすいのに対し、幾何学形態をベースとしたロゴはシンプルで洗練されたイメージを持たせ、知的さや上質さを演出することができます。幾何学形態を使用したSamir氏の本件のロゴデザインは、医療分野で活動するSURGITECH Healthcare Solutions 社の優良さを反映し、ブランドイメージをアップさせる効果を担っています。
業務効率化アプリの、プロセスを視覚化したロゴデザイン作成例
最後は『Mobile PO Approver (ECS)』の作品です。 ECS社は、ヨーロッパ最大級のソフトウェア会社SPA社のエジプトとサウジアラビアを拠点とするパートナー企業で、革新的な経営コンサルティングとテクノロジーサービスを提供している会社です。
『Mobile PO Approver』はECS社が開発した承認システムを強化する新しいアプリケーションで、仕事環境において手作業を最小限に抑え、効率性を向上させることにより、管理者と従業員の協力を促進させる機能を保持。このアプリを使うことで、いつでもどこでもモバイル上の注文や要求にレビュー・承認・却下が可能です。円滑なコミュニケーションと管理プロセスのシンプル化を特色としています。 このアプリケーションのロゴデザインをSamir氏が担当しました。
アプリケーションの名称の「P」と「O」に、approveを意味する承認の「チェック」マークが、ロゴのモチーフとなっていますね。
この事例でも、正円と直線を多数組み合わせながらP字、O字、チェックマークを生み出し、この三つの要素がお互いに連鎖しあう形態を創り上げています。 赤系統と青系統のグラデーションを施し、ソフトでフレッシュな雰囲気を放つこのロゴは、新しいアプリケーションの斬新性に相応しいものと言えるでしょう。
まとめ
企業の掲げる理念やユーザーに対するメッセージを軸に、幾何学形態を利用しながらユニークなロゴを創造するMohamed Samir氏の仕事を見てきました。 企業やサービスのあり方を徹底的に吟味し、それを下敷きにデザイン性高くシンプルにまとめてブランディングデザインを行うSamir氏の手法は非常に参考になるものでした。
design : Mohamed Samir ( Dubai )
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