
「あの頃は楽しかった」は本当か?仕事漬けだった20代を振り返って思う、働き方とライフステージの関係
ふと、社会人になりたての頃を思い出すことがあります。右も左もわからず、とにかく目の前の仕事に必死だったあの頃。僕にとって新卒で入社した会社は、まさに「修行」のような場所でした。厳しいながらも多くのことを学ばせてもらい、今の自分の土台を作ってくれたと感じています。
ただ、その働き方を今振り返ると、「よくやっていたな…」と我ながら驚くこともあります。深夜までの残業は当たり前、休日出勤も少なくない、文字通り「仕事漬け」の日々。それでも当時は、不思議と「楽しい」と感じていた瞬間も多かったのです。
なぜ、あんなにハードな働き方ができたのだろう? そして、なぜ「楽しい」とさえ思えたのだろう? 最近、そんなことを考える機会がありました。そして気づいたのは、働く環境の「良し悪し」は、その人の置かれた状況、特にライフステージによって大きく変わるのではないか、ということです。今回は、僕自身の経験を振り返りながら、働き方とライフステージの関係について考えてみたいと思います。
仕事が全てだった、あの頃
僕が新卒で入った会社は、とにかく仕事の密度が濃い環境でした。先輩たちは優秀で、求められるレベルも高い。ついていくのに必死で、毎日が勉強でした。デザインのスキルはもちろん、仕事の進め方、クライアントとのコミュニケーション、社会人としての基礎体力のようなものまで、叩き込まれた感覚があります。
正直に言うと、労働時間はかなり長かったです。遅い時間になるのは日常茶飯事で、時には明け方近くまでオフィスにいることもありました。まさに「仕事に育てられた」という表現がぴったりかもしれません。
周りから見れば「ブラック」と言われても仕方ない環境だったかもしれません。でも、当時の僕は、その環境をそこまで苦痛だとは感じていませんでした(残業代もしっかり出たし!)。むしろ、新しいことをどんどん吸収できること、難しい課題を乗り越える達成感、チームで何かを作り上げる一体感に、一種の高揚感すら覚えていたのです。
なぜ、あの働き方が「楽しかった」のか?
今になって冷静に分析すると、当時の僕があのハードワークを楽しめたのには、いくつかの明確な理由があったと思います。
1. 「20代」という若さ
まず何より、若さがありました。体力があったのはもちろんですが、精神的なタフさもあったように思います。多少の無理がきくし、徹夜明けでも翌日にはケロッとしていたり。
新しい知識やスキルをスポンジのように吸収できる時期でもあり、「成長したい」という欲求が非常に強かったです。その欲求が、長時間労働の辛さを上回っていたのかもしれません。知的好奇心や成長意欲が、エネルギーの源になっていた感覚です。
2. 仕事に集中できた「環境」
もう一つ大きかったのは、当時の僕が「独身」で「寮暮らし」だったことです。これは、仕事に没頭するための、ある意味で「最適な」環境でした。
守るべき家族がいるわけでもなく、自分のためだけに時間を使えました。寮に住んでいたので、通勤時間は短く、家事に費やす時間も最小限。食事も会社の食堂や外食で済ませることが多く、生活のほとんどを仕事中心に組み立てることが可能でした。良くも悪くも、「仕事しかない」状況を受け入れ、むしろそれに集中することができたのです。
もし当時、家庭を持っていたり、一人暮らしで家事を全て自分でこなさなければならなかったりしたら、同じ働き方は絶対にできなかったでしょう。仕事以外のことにエネルギーを割く必要がなかったからこそ、仕事に100%(あるいはそれ以上?)の力を注ぎ込めたのだと思います。
今、同じ働き方はできるだろうか?
では、今の僕が、あの頃と同じ働き方をできるかと問われると、正直に言って「厳しい」と答えるでしょう。
理由はいくつかあります。
まず、単純に体力的な問題があります。20代の頃のような無理はもうききません。健康への意識も高まり、睡眠時間を削って働くことに強い抵抗を感じます。
価値観の変化も大きいです。
もちろん、仕事は今でも僕にとって重要なものですし、情熱を持って取り組んでいます。しかし、仕事だけが人生の全てではない、と考えるようになりました。プライベートの時間、家族や友人との時間、趣味や自己投資の時間など、大切にしたいものが増えました。ワークライフバランスという言葉がありますが、それを意識せざるを得ない状況に、自然と変化してきたのかもしれません。
あの頃の経験は、間違いなく僕の財産です。厳しい環境だったからこそ、短期間で多くのことを学び、成長できた実感があります。あの経験がなければ、今の自分はなかったでしょう。それは確かです。
しかし、それはあくまで「あの頃の自分」にとって「結果的に良かった」働き方だった、ということです。
「良い職場」の定義は、人生のタイミングで変わる
この経験を通して強く感じるのは、「良い働き方」や「良い職場」の定義は、絶対的なものではなく、その人のライフステージや価値観によって大きく変わるということです。
- 20代:成長と経験を最優先 多少の無理をしてでも、スキルを磨きたい、経験を積みたい、早く一人前になりたい。そんな時期には、ハードワークを厭わず、多くの挑戦ができる環境が魅力的に映るかもしれません。僕の最初の会社がそうでした。
- 30代以降:バランスと安定、そして貢献 キャリアを重ね、家庭を持つなどライフスタイルが変化すると、仕事一辺倒の生活は難しくなります。仕事のやりがいや成長はもちろん大切ですが、それに加えて、プライベートとの両立、安定した収入、健康的に働ける環境、社会への貢献実感などを重視するようになる人も多いでしょう。
- さらに先のステージ:経験の継承や、自分らしい働き方 これまでの経験を活かして後進を育成したり、より自分のペースで働ける環境を求めたり、あるいは全く新しい分野に挑戦したり。求めるものはさらに多様化していくはずです。
これはあくまで一例であり、年齢だけで一概に語れるものではありません。人それぞれ、価値観も状況も異なります。大切なのは、「今の自分にとって」何が重要なのかを理解し、それに合った働き方や環境を選んでいくことではないでしょうか。
かつて自分が「楽しかった」と感じた働き方が、今の自分には合わないかもしれない。逆に、昔は魅力を感じなかった働き方に、今の自分は価値を見出すかもしれない。それは、どちらが良い・悪いという話ではなく、単に「タイミング」や「状況」が変わっただけなのです。
まとめ – 自分にとっての「最適」を見つける旅
新卒時代のハードな経験は、僕にとって貴重な学びの機会でした。若さと、仕事に集中できる環境があったからこそ乗り越えられ、楽しむことさえできたのだと思います。
時を経て、体力も、価値観も、ライフスタイルも変わりました。今、同じ働き方をすることは難しいと感じますし、それを目指そうとも思いません。
働く環境の良し悪しは、絶対的な基準で測れるものではありません。ある人にとっては最高の環境が、別の人にとってはそうではないかもしれない。そして、同じ人であっても、人生のステージが変われば、求めるものは変化していきます。
もし今、あなたが仕事や働き方に悩んでいるなら、少し立ち止まって、「今の自分にとって、本当に大切なものは何か?」を問いかけてみるのも良いかもしれません。過去の成功体験や、世間の常識にとらわれず、今の自分に正直になってみる。そうすることで、自分にとっての「最適な働き方」や「心地よい環境」が見えてくるのではないでしょうか。
僕自身も、これからも変化していくであろう自分のライフステージに合わせて、その時々でベストな働き方を模索し続けていきたいと思います。終わりなき「自分にとっての最適」を見つける旅です。
新卒で入った会社に鍛えられましたが、朝2時まで働いたり仕事漬けでした。①20代だったこと。②独身&寮暮らしで仕事オンリー人生でOKだったこと。という条件だったから、楽しく働けましたが、今できるかと考えたら厳しいかも。働く環境は、人生のタイミングによっても良し悪しが変わりそうですね。
X (Twitter) – Jan 10, 2021