ブランディングの一環として新たにカスタム書体も準備するケースが多くなっています。ブランドからのメッセージをテキストだけでなく書体デザインそのものを使って伝えようという考え方です。
米国タイポグラファー、ビアトリス・ウォード(Beatrice Warde)がタイポグラフィの機能について90年前に書いた『The Crystal Goblet(クリスタル・ゴブレット)』というエッセイがあります。
ワインを楽しむには透明のグラスが適しているように、タイポグラフィも目に見えない(invisible)のものが良い。と彼女は主張しました。
カスタム書体によるブランディングは、身をひそめるのではなく、声をあげてメッセージを伝えているので、ウォードの考え方に反するように見えます。
しかし、コンテンツの意味を損うべきではないと解釈すれば、ブランディングと一体化したカスタム書体は、ウォードに対する現代的な答なのかもしれません。
鉄道模型の喜びを体現するカスタム書体デザイン
デザイン専門サイト『Mindsparkle Mag』がドイツ玩具産業協会(DVSI)のイメージアップキャンペーンを取り上げています。ドイツは米国や日本とならんで鉄道模型ファンが多く、ジオラマ作りが盛んにおこなわれているのが特徴です。
協会に加盟している鉄道模型関連の企業が団結して「Wir Modellbahner(われら鉄道模型ファン)」キャンペーンを2019年に展開しました。古い世代のホビーと思われている鉄道模型のイメージを刷新するのが目的です。かつて楽しんでいたマニアにプライドを持ってもう一度楽しんでもらったり、未体験のひとには驚きを感じてもらうことで、ファンを増やそうと考えました。
屈強な男がハーレーを駆るシーンから始まる「Die Stadt gehört mir(街は俺のもの)」というプロモーション映像があります。男はある店で怪しい小さな包みを受け取り、家に持ち帰ります。実は鉄道ジオラマに追加するバイクのミニチュアだったというオチです。
動画が終わりに近づくとキャンペーンのロゴ「Wir Modellbahner」が登場します。古い鉄道模型ファンのイメージをくつがえす動画とポップなワードロゴにキャンペーンの「声」がよく表れています。このプロモーション映像とカスタム書体がキャンペーンの中核です。
ロゴデザイン作例を見る (via Pinterest)
カスタム書体は「Modellbahner」に使われているグラフィカルなフォントと「wir」「bahner」の幾何学的なサンセリフ書体の2種類が作られました。グラフィカルな書体は鉄橋をモチーフとしたと思われる「M」やカーブを描いたレールのような「l」など、ジオラマのアクセサリーを連想させます。また、ビジュアルでは、線路や樹木などのジオラマのアクセサリーと文字の一部を差し替えて、さまざまなパーツを組み上げていく鉄道模型の楽しさも表現しています。
このリブランディングを手がけたのはドイツのクリエイティブスタジオpapa tomです。シンプルとはいえない鉄道模型の楽しみを、動き・ミニチュア・技術という3つのキーワードに凝縮することにしました。それをグラフィカルな書体、ジオラマアクセサリーと文字との組み合わせ、もうひとつのサンセリフ系カスタム書体で視覚化しています。
このキャンペーンは、専用サイト・Instagram・YouTube・屋外広告・グッズなどを活用してクロスメディアで展開されました。
過去と未来が融合したディスプレイフォントのデザイン
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2020年3月に「Unknown Type」というフリーフォントがリリースされました。オーストリアの首都ウィーンを拠点に活動するふたりのデザイナー、Lukas Haider氏とAlexander Raffl氏が作り出した個性的な書体です。
ビットマップフォントやピクセルアートをPhotoshopで拡大縮小すると、設定によってはエッジが甘くなったり、ピクセル(ドット)が結合または消えたりして思いがけない形になることがあります。このUnkown Typeを見ると最初にそれを思い起こしました。ジャギーなビットマップフォントのような文字はAdobe Illustratorとフォント作成アプリGlyphsを使って作成されました。
デザインを見る (via Instagram)
Unknown Typeは「RND」「PX」「MX」という3つのスタイルを持っています。RND(Rounded)は角丸になっています。PX(Pixel)は直線で構成されたシャープなスタイルです。MX(Mix)は、RNDとPXの融合したスタイルで鋭い角と丸められた角がひとつの文字に混在しています。
Unknown Typeに小文字は含まれていませんが、シフトキーで異字体(オルタネートフォント)が使えます。同じ文字でも、ピクセルの組み方が異なっているので表情が異なります。また、さまざまな記号が1125個も準備されているのも大きな特徴です。
書体を生んだふたりは、アルバムジャケットやポスター、雑誌など音楽やカルチャーに関係するプロジェクトに向いているだろうと考えています。ロゴやエディトリアルでUnknown Typeを使う場合は、おもしろい対比が生まれるので古典的なグロテスク(Grotesk)書体かセリフ系を組み合わせるのがオススメだそうです。
【参考】
Wir Modellbahner – Mindsparkle Mag – https://mindsparklemag.com/design/visual-identity-and-campaign-wir-modellbahner/
A Typeface That Shifts from Trendy Bitmap Lettering to Cheeky Organic Curves | Eye on Design – https://eyeondesign.aiga.org/a-typeface-that-shifts-from-trendy-bitmap-lettering-to-cheeky-organic-curves/
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