数ある広告媒体の中でも、手軽で効果を発揮しやすいチラシ。前回の「チラシ・フライヤーの作り方 – 考え方編」では、チラシをデザインする前に知っておくべきノウハウについて解説しました。
企業やブランド、店舗などの広告戦略には、短期的な目標や長期的な目標というように、大小それぞれの目標やゴールがあります。チラシは配布した直後に効果が出やすいことから、短期的な目標の達成手段として用いると効果的です。
チラシを制作するとなると、せっかく作るのだからと、あれもこれも詰め込みたい気持ちに駆られます。しかし焦点は一つに絞り、チラシで得られるメリットを具体的に想定しておくと効果が発揮しやすいでしょう。
チラシを使って達成したい「ゴール」を設定し、伝えたい「ターゲット」、そして、自社の独自性と差別化ポイントをまとめた「コンセプト」をはっきり決めたらいよいよデザイン作業に入っていきます。
「デザイン」といっても星の数ほどあるチラシのスタイル。大きなマーケットの中で注目されるためには、通り一遍なデザインではスルーされてしまいます。独自性を主張することはもちろん、見てもらえるデザインであることがチラシの第一関門。
どのような点に気をつけてデザインすれば見る人の手を止めることができるのか、チラシのデザインのコツについて考えていきましょう。
チラシに掲載する情報をシンプルに、伝わりやすいカタチにする
前回の「考え方編」で解説したように、チラシのデザインに入る前に「コンセプト」を設定することが大事な作業になります。デザインは、そのコンセプトを元に、伝えたいターゲットに向けて具現化していきます。
例えば、同じ食品を扱う店舗でも、
A 「無料試食や詰め放題が目白押し!賑やかな食品祭り」
というコンセプトのチラシと、
B 「アメリカで話題の人気スイーツ初上陸!スイーツフェア開催」
というコンセプトのチラシでは、メインになるビジュアルもその扱い方にも違いが生まれます。
Aのコンセプトでは、試食販売会や詰め放題などの店頭イベントをメインに、過去に開催したことがあればその時の様子がわかる写真や食材のイラスト・写真を散りばめ、賑々しいお祭り感の伝わる派手なイメージのデザイン。
Bのコンセプトでは、話題のスイーツを前面に出した写真メインのビジュアルや、まだそのスイーツを知らない人へ情報を提供するコピーも必要です。
どちらのチラシも、イベントや目玉商品を設定し、集客を図るためのチラシには違いありませんが、扱う商品の特性や興味を持つターゲットの違いにより表現方法は大きく異なります。
ですが、共通して言えるのは、どちらのチラシも集客のトリガーとなる要素を一目で見る人へ伝わるように作らなくてはならないということ。
チラシを見た人が「これがあるから行きたい」と思えるように、伝えたいことがストレートに届くデザインであることが第一条件です。
チラシデザインに欠かせない2大要素
コンセプトを伝えるには、情報をシンプルにわかりやすく表現することが不可欠ですが、どのような手段を取れば見る人の手を止め、チラシを読んでもらうことができるのでしょうか。
人間は五感を使って情報を得ます。ご存知のとおり五感とは「視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚」を指しますが、チラシが訴えられるのは「視覚」が主なもの。視覚を通し情報を伝えるには「ビジュアル」か「言葉」のどちらかを使う必要があります。
●ターゲットに伝わりやすい「言葉」 – キャッチコピー
見る人へ「意味」を真っ直ぐに伝える「言葉」。
チラシの中でも、大きく目立つように配置される文章を「キャッチコピー」といいます。
チラシの形態によっては、「キャッチコピー=チラシの見出し」となる場合もありますが、どのようなパターンでも、キャッチコピーは簡潔で力強く、興味を煽るものが適しています。
文字で目を引くキャッチコピーの作り方にはさまざまな方法がありますが、読み物としての文とは違い、文章としての精度はそれほど求められません。チラシのキャッチコピーの役割は、読み手の興味を引くこと。
文法が多少おかしかったり、辞書に載っていない流行語であっても、注目させることができれば成功です。
とくに語感が大切で、短く小気味よいリズムを持ったコピーは覚えやすく、商品と結びついて見る人の記憶に強く残ります。
また、ターゲットを意識した文章のセレクトもポイント。語りかけるような文体や疑問形など、一方通行にならないコピーも人の気持ちに響きます。
キャッチコピーをメインにするデザインの場合、わかりやすい方法としては、コピーを大きく目立つように配置することで注目を集めることができますが、写真やイラスト、空間、その他の文章とのバランスが大事で、あえて大きく扱わなくても、周りにスペースを広く空けることでキャッチコピーに目が行くようにデザインしたり、絵柄とコピーの意味的な関わりを強調することで記憶に残るようなデザインを目指すなど、アイデア次第でさまざまなパターンが考えられます。
●見た目で興味を引く「アイキャッチ」
写真やイラスト、カラーやデザイン要素など、ビジュアル面で目を引くのが「アイキャッチ」です。「目は口ほどに物を言う」ということわざ通り、視覚を通して入ってきたビジュアルは、言葉とは異なり「意味」を考える前に「感覚」で受け取られます。
人間は、無意識下での感覚に大きく左右されており、とくに「好き」か「嫌い」かという感覚は物を選ぶときの選択基準から外すことができない条件の一つです。
とくに「色」や「形」は人の心理や行動に大きな影響を与えます。
たとえば、量販店などのチラシでよく見かける「バクダンマーク」。放射を利用したトゲトゲした星形のようなこのマークは人の視線を集める形。「バクダンマーク=お買い得品」という経験的回路も手伝い、注目させるには有効な手段です。
色や形を使ったコミュニケーションは、チラシ全体のイメージを決定づける大きなファクターです。賑やかな色、落ち着いた色、やさしい色、フォーマルな色、季節に合わせた色、年齢や性別・ライフスタイルに合わせた色など、チラシに持たせたいイメージに合う色選びはチラシデザインの基本です。形を意識することは、アイキャッチのスタイル選びはもちろん、デザイン全体の構成にも関わります。
また、イメージに沿う写真やイラストなどを使うのもアイキャッチとしてたいへん有効な手段。
表情を持つ人物像やキャラクター、かわいらしい動物や、驚くような構図の写真、雄大な景色、魅力的な商品写真など、意外性や美しさなど一目で「感情」を呼び起こすことができるビジュアルはチラシのフックとなり注目を集めます。
ブランドや店舗、商品に決まったロゴマークやカラーパレットなど、ビジュアル・アイデンティティとなるデザインがある場合は、積極的にチラシに取り入れ認知促進を図りましょう。「この色合いはこの店」という風に覚えてもらうことができれば、数あるチラシの中でも埋もれることがなくなります。
視線を誘導し「読ませる」チラシデザインを作る
チラシは一枚の紙に情報をギュッとまとめ、手元に届ける「読ませる」ためのメディア。
いかにして手を止め、内容に目を向けさせることができるかというのが第一関門ですが、印象深いキャッチコピーやアイキャッチで注意を引くことができれば、次なる課題は、「最後まで見てもらえる」デザインであるかという点です。
人の視線は、さまざまな法則に従って見るものを追い、見たり読んだりしています。
よく知られている法則に「Z式」や「N式」というものがあります。
「Z式」は、横書きのチラシによく使われる方式で、人は横書きの文章を読むとき、左上からはじまり、右横、左下、右横、左下、右横、左下・・・とZの形をなぞるように視線を動かします。その動線を生かして見てもらいたいものを配置することで効果的にチラシを読ませるという構成です。「N式」は縦書きのチラシによく使われ、新聞を読むときのように、右上、真下、左上、真下、左上、真下・・・とNの形の流れで視線を動かすことを利用した構成です。
その他にも、「同じ色を目で追う」という習性を利用し、見せたい商品を同じ色の見出しで統一したり、「大きなものから小さなもの」へ視線が移る原理を生かしたレイアウト、「順番を追う」という習慣を意識したナンバリングを使ったレイアウトなど、人間工学的な「人の習性」を考慮したチラシはテンポよく読んでもらえる可能性が高くなります。
伝わるチラシを作るデザインのポイント
見てもらえる工夫、読ませる工夫を理解したら、次はいよいよ具体的なデザインに落とし込んでいきます。チラシの目的やターゲットを考慮し、どのようなスタイルが制作するチラシに適しているか考えていきましょう。
●写真をメインにしたチラシデザイン
チラシに写真を使うと、臨場感やリアリティが生まれます。
売り出したい商品やレストランの新メニュー、イベントに出演するアーティストや、素敵なヘアスタイルのカットモデル・・・どれも言葉で説明するより「そのもの」を見せた方が伝わると思われる場合は、写真を掲載することをおすすめします。
それ以外に、「イメージ」を伝えたい場合も写真を使うのは有効な手段。商品そのものを説明するための写真でなくても、コンセプトを体現するために考え抜かれた構図の写真は、チラシの意図を伝えるための強力なアイキャッチとなります。
写真のスペースが大きな割合を占めるチラシは、インパクトが強く、その写真が魅力的であればあるほど見る人の反応は良いものになるでしょう。ただし、大きく扱う写真が、それに耐えうる写真であるかどうか、大きく見せる必要のある写真であるかという精査はとても重要なものになります。
また、写真の扱いには大きく分けて二通りの方法があります。
一つは、周りに写る風景も含め、一枚の絵として希望のサイズでトリミングして使用される「角版」といわれる方法。もう一つは、被写体の形に沿って切り取り、周りの風景を取り除いて使う「切り抜き」という方法。
角版は、切り取る形はさまざまで、四角形を基本とし、どんな形でも周りの風景ごと切り取られていればその範疇にあります。メインにしたい被写体だけではなく、周囲のものも一緒に写ることから、落ち着きのあるイメージや雰囲気のあるイメージとして扱いたい時に適しています。
切り抜きは、被写体の形そのものを生かす方法。角版が「静」のイメージならば、切り抜きは「動」のイメージ。切り抜いた写真を、周りのデザインパーツや文字と一緒に配置すると、躍動感あるイメージが出来上がります。
●イラストやキャラクターを主役にするチラシデザイン
写真に比べ、任意のイメージを作りやすいのがイラストをメインにしたビジュアル。
実際の画像では表現することが難しいイメージも難なく表現できるのがイラストの利点。思い描いたカタチをイラストレーターに伝えることができれば、どのようなイメージも実現することができます。文字やデザインパーツとも相性が良く、文字だけではイメージしづらい場面の補足としてもよく使われます。
写真同様にメインのアイキャッチとして大きく使ったり、イラストでしかできないマンガのような表現、一枚の絵のように他のパーツと馴染ませたお洒落な表現など、自由にデザインできるのがイラストの強みです。さらに、写真とイラストを組み合わせると、より一層表現の幅が広がります。
また、近年話題になることが多い「ゆるキャラ」のように、ブランドや店舗、企業独自のマスコットキャラクターを有している場合、積極的に活用するのもイメージ戦略として有効な方法。キャラクターを通すことで、企業とユーザーの距離が大きく縮まります。
●文字の魅力で惹きつけるチラシデザイン
絵柄と同じくらい強く人の心を引き付けるのが「言葉」の力。
文字が一切入っていないチラシはほぼゼロといえますが、写真やイラストなどのアイキャッチがないチラシというのは、少ないながら存在します。
情報を伝えようとする時、欠かすことができない文字や言葉。ただ羅列するだけでは読み流されてしまう文字も、書体や文字の大きさ、強弱や色、配置の仕方を工夫することで目に飛び込むようなデザインにすることが可能です。
加えて、人の心に響くような意味を持つ言葉や文章なら、なお一層、注意を引く「キャッチ」として機能します。
キャッチコピーを大きく扱い、アイキャッチと共にデザインしたチラシや、魅力的な文面を紙面いっぱいに並べたチラシ。文字も魅力的な形を持った立派なデザインの一部。ターゲットに合わせたフォントやカラーを選び、読みやすさを念頭に置いてデザインすることで、文字をメインにしたチラシデザインが成立します。
●チラシの「表」「裏」を使い分ける
チラシには、片面刷りと両面刷りの2パターンが存在しますが、新聞に折り込まれるチラシの過半数が両面刷りのチラシです。
片面刷りに比べ、たくさんの情報が届けられる両面刷りチラシは、表面には「イメージ」や「顔」となるアイキャッチやキャッチコピーをしっかり入れ、興味を持った人には裏面をじっくり読んでもらうというスタイルが定番です。
詰めれば一面で収まる内容でも、レイアウトに余裕を持たせ、注目してもらえるキャッチ作りはチラシデザインの肝。一目見て「気になる」デザインになるよう、表面の「チラシの顔作り」は全力を注ぎましょう。
●見た後の「行動」に繋げる仕掛け作り
チラシを手に取り「見た」だけでは、効果に繋がりません。
見た人がメリットを感じ、来店や購買など次なるアクションへ繋がる「きっかけ」をチラシに用意しておきましょう。
切り取って持ち歩くことができる「クーポン」や、webページにアクセスできる「QRコード」、チラシを見て来店することで利益が得られる「特典」など、見た人が得をする仕組みを積極的に取り入れることで、そのチラシの効果も計りやすくなります。
もっとも、売り出しチラシやイベントなどの開催告知は、来店者数や売り上げ、来場者数がそのまま数値となるのでその限りではありませんが、プラスαのおまけがついているとより一層の効果が期待できます。
まとめ
チラシのコンセプトを固め、デザインの基本とポイントが理解できたら、チラシの原寸の紙にラフデザインを描いてみましょう。細部のデザインまで描かなくても、イメージできるものであればOKです。大まかな割り付けと、アイキャッチやキャッチコピーの扱い、どんなビジュアルや原稿が必要になるか、またその手配はどうするかなど検討の土台にし、デザインを詰めていきましょう。
ここから先の作業は、デザイナーやコピーライター、カメラマンなどのチームで行っていく事がほとんどです。どんなチラシにしたいかコンセプトが決まっていれば、打ち合わせし、ラフを提出してくれるチームがほとんどでしょう。依頼する業者によっては、テンプレートが用意されている場合もあるので、雛型を参考に打ち合わせしていくのもイメージに近づける方法です。
ラフを描いて自分で手書きやパソコンでデザインしていくのも、やりがいがあり、思い描くデザインを作るには最適ですが、デザインの経験がなかったり、時間がない場合はプロに頼むのもおすすめです。チラシデザインの基礎知識は、チラシ作りに関わる人が持つべき共通認識。
どんなチラシを作り、どんな効果を期待するか、目的とゴールのビジョンをしっかり持って、効果のあるチラシを作りましょう。
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