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怠惰

めんどくさいは、最強のニーズ

自営業を何年かやってきて、一つ確信していることがあります。世の中の人は、自分も含めて、基本的にめんどくさがりだということ。

「できなくはないけど、やりたくない」「調べればわかるけど、調べる気力がない」「自分でやるより、お金を払ってでも誰かに頼みたい」。こういう気持ちは、日常のあちこちに転がっています。そしてこれが、ちゃんとお金になる。

ビジネスの教科書には「課題を解決しろ」と書いてあります。もちろんそれは正しい。ただ、もう少し正直に言い換えると「めんどくさいを代わりにやれ」が、かなり多くの仕事の本質だと僕は思っています。華々しいイノベーションや革新的な技術よりも、「あ、それ誰かやってくれたら助かるのに」という小さなため息の集積が、実は一番リアルな市場だったりします。

 

特別な技術がなくても成り立つ理由

自営業の面白いところは、一つ一つの技術が飛び抜けていなくても、仕事として成立する場面が結構あるということ。

たとえば、デザインがそこそこできて、ちょっとしたコーディングもできて、文章もまあ書ける。どれも「専門家」と名乗るには心もとないレベルだとしても、それらを掛け合わせると途端に「サービス」っぽくなります。依頼する側からすれば、デザイナーとエンジニアとライターに別々に発注して、それぞれに説明して、スケジュールを合わせて、成果物を統合して……という過程がそもそもめんどくさい。一人にまとめて頼めるなら、多少それぞれの精度が落ちてもそっちのほうがありがたい、という判断は十分あり得ます。

世の中には「50〜80点を3つ持っている人」と「120点を1つ持っている人」がいて、仕事の種類によっては前者のほうが重宝されます。完璧な一点突破も魅力的ですが、クライアントが本当に求めているのは「完璧な一つ」ではなく「まるっと面倒を見てくれる誰か」であることも多いです。自営業の現場では特にそうで、「とりあえず全部お願いできますか?」という一言から始まる仕事は、想像以上にたくさんあります。

 

「お金を払うから誰かやってくれ」の正体

仕事

めんどくさいにもいろいろあって、少し分解してみると見えてくるものがあります。

まず、知識はあるけど手を動かす時間がない。何をすればいいかはわかっているけれど、作業そのものに割くリソースが足りない。忙しい経営者やチームリーダーに多いタイプで、言うなれば「時間のめんどくさい」です。

次に、やり方がわからない、調べるのも億劫。自分の専門外のことをゼロから学ぶ気力がない。これは「知識のめんどくさい」。

それから、やれるけど品質に自信がない。自分でやるとどこか不格好になる気がして、プロに任せたほうが安心だと感じている。「クオリティのめんどくさい」とでも呼べるもの。

どのパターンでも共通しているのは、「誰かに頼めるなら頼みたい」という感情です。しかもこの感情は、本人があまり自覚していないことも多い。毎月なんとなくやっている作業、慣れてしまった不便、「まあこんなもんか」と受け入れている非効率。こういう声にならない「めんどくさい」は、外から指摘して初めて「言われてみれば確かに」と気づかれます。言語化されていないニーズほど、拾えたときの反応は大きい。

 

「何屋さん」かわからない、くらいがちょうどいい

自営業を始めたばかりの頃、「あなたは何屋さんですか?」と聞かれるのが少し苦手でした。デザイナーと名乗ればデザインだけの人だと思われるし、かといってあれもこれもできますと言うと器用貧乏に見える。肩書きの問題は、自営業者にとって地味にやっかいなテーマです。

でも実際にやっていくうちに、「何屋さんかわからない」という状態が、むしろ武器になることに気づきました。相手が困っていることを聞いて、自分のスキルの引き出しから使えそうなものを組み合わせて提案する。定型的な肩書きがないぶん、目の前の人の「めんどくさい」に柔軟に対応できます。

大事なのは、自分の専門性をどう定義するかではなく、相手の「助かった」をどう設計するか。名刺に書く肩書きがぼんやりしていても、やっていることの輪郭は仕事を重ねるうちにはっきりしてきます。「この人に聞けばなんとかなる」という信頼は、肩書きよりもずっと強い。

 

ニーズは「不満」ではなく「怠惰」にある

仕事のニーズ

ビジネスのヒントを探すとき、「困っている人を助ける」という視点はもちろん大事です。ただ、僕はもう一つの視点も意識しています。困ってはいないけれど、めんどくさいと思っている人を見つけること。

不満は声に出やすい。レビューに書かれ、SNSで拡散され、改善要望として届く。一方で、怠惰は声にならない。「別にこのままでもいいんだけど、もっとラクできたらいいのにな」というぼんやりした気持ちは、誰にも伝えないまま日常に溶けていきます。

ここに目を向けると、思わぬ仕事が見つかります。ある作業を月に一度やっている人がいて、その人はそれを「仕事の一部」として受け入れている。でも外から見ると「それ、誰かに任せたほうがいいのでは?」と思うことがある。提案してみると「え、お願いしていいの?」と驚かれ、そのまま仕事になる。こういう流れは、自営業をやっていると珍しくありません。

面白いのは、こうしたニーズは本人が声を上げないから、競合も生まれにくいということ。不満に対するソリューションは市場にあふれていますが、怠惰に対するソリューションは見つけた人だけが拾える。静かな鉱脈みたいなもので、掘り当てるコツは「この人は何を我慢しているか」ではなく「何を面倒だと感じていることすら忘れているか」に目を向けることだと思います。

 

組み合わせの妙を楽しむ

自営業は、自分の持ち札で勝負するゲームです。手札が少なくても、組み合わせ次第で意外と戦える。大切なのは「自分に何ができるか」だけでなく、「相手が何をめんどくさいと思っているか」を想像すること。

技術を磨くのも大事ですが、それと同じくらい「めんどくさいを見つける目」を養うことが、長く続ける上での武器になると感じています。

特別な才能がなくても、特別な資格がなくても、「お金払うから誰かこれやってくれないかな」に気づける人は強い。世の中は、思った以上にめんどくさいで回っています。そしてめんどくさいの数だけ、仕事の種は転がっている。それを拾えるかどうかは、スキルの高さより、観察の解像度にかかっている気がします。

 

自営業の面白さは、一つ一つはそこそこの技術力でも、ニーズに応じて複数組み合わせると”サービス”っぽくなってご飯が食べていけちゃったりするところ。世の中の人は自分も含めて面倒臭がりで、(お金払うから誰かこれやってくれね〜かな)は沢山あると思う。

X (Twitter) – Jun 12, 2022

この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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トミナガハルキ

グラフィックデザイナー/AMIX 代表。独学でデザインを学び、パッケージメーカー→美容系ベンチャー→家庭用品メーカーでのデザイン・広報運営を経て独立。現在は小さな事務所を拠点にASOBOAD等のサービスを運営し、ロゴ・パッケージ・広告物を中心に制作しています。著書『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』は各カテゴリでベストセラーを獲得。2020年Adobe Creative Residency選出。ブログでは、10年以上の実務から学んだことや働き方のヒントを等身大の視点で発信しています。