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斜陽産業

みんなが向かう先に、本当にチャンスがあるのか

AIをはじめとした新しい技術が毎日のように話題になっています。SNSを開けば「この波に乗らないと取り残される」という声があちこちから聞こえてくる。何かビジネスを始めようと考えている人なら、自然と成長産業のほうに目が向くと思います。

でもちょっと立ち止まって考えてみると、成長産業には参入者が殺到します。資金力がありスピードも速い大手と同じ土俵で戦うことになる。スモールビジネスにとってそれが本当に有利な環境かというと、必ずしもそうとは言えません。

最近思うのは、むしろ緩やかに斜陽に向かっている産業のほうがスモールビジネスには合っているのではないかということです。

 

大手が去ったあとに残るもの

たとえば印刷業界。市場全体はデジタル化の影響で縮小が続いていて、大手印刷会社の事業縮小や撤退もめずらしくありません。世間的には「斜陽産業」の代表格のように扱われることもあります。

ただ印刷物がこの世から消えるかというとそんなことはありません。名刺やパンフレット、パッケージ、書籍。紙でなければ成立しない場面はまだいくらでもあります。市場は縮んでいても、ゼロにはなりません。

ここで注目したいのは「誰が先に退場するか」です。市場が縮小するとき最初にいなくなるのは大手です。大きな企業ほど固定費が高く採算ラインも高い。市場規模がそのラインを下回った瞬間、事業を畳むか縮小するかの判断を迫られます。

でも大手がいなくなっても需要そのものが消えるわけではありません。これまで大手に発注していた企業は別の発注先を探すことになります。そこに小さなプレイヤーがいれば自然と仕事が流れてくる。競合が減った環境で残った需要を拾っていくわけです。

斜陽産業では「大きいこと」がデメリットになる

成長産業では規模が武器になります。大きく投資して大きく回収する。スケールメリットを活かして競合を圧倒する。でも斜陽産業ではこの構図が逆転します。

市場が縮んでいく中で大きな設備や多くの人員を抱えていると、それ自体が重荷になります。稼働率は下がり固定費だけがのしかかる。規模を維持するために無理な価格競争に巻き込まれたり、採算の合わない案件まで受けざるを得なくなったりします。大きく展開していることがメリットではなくデメリットに変わる瞬間です。

そうなると大手は撤退を選びます。そして大手が抜けたあとにはぽっかりと隙間が生まれる。この隙間こそがスモールビジネスの活動スペースです。固定費の小さい個人や小さなチームなら、大手が「もう割に合わない」と判断した規模の仕事でも十分に成り立ちます。同じ市場にいても「もう無理だ」と感じるタイミングがまるで違う。ここにスモールビジネスの構造的な優位性があります。

 

強敵が去り、新規参入も少ない空間

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もうひとつ、斜陽産業で粘ることの意外な利点があります。競合が増えにくいということです。

成長産業には新しいプレイヤーが次々と参入してきます。「儲かりそうだから」「将来性があるから」と多くの人が集まり、常に競争にさらされます。一方で斜陽産業にわざわざ今から飛び込んでくる人は多くありません。

印刷業界の場合、紙面のデザインや入稿データの作り方、印刷特有の色の扱いや用紙の知識など、実務で使えるレベルになるまでにそれなりの学習時間が必要です。デジタルのデザインとはまた違った専門性が求められます。「これから伸びる分野」とは言い難い領域に、わざわざ時間を投資して参入してくる若い世代は正直そう多くはないでしょう。

つまり、上を見れば大手という強敵が去っていき、下を見れば若手の新規参入も起こりにくい。この二重の構造によって競争の少ない空間が生まれます。すでにその領域でスキルや経験を持っている人にとっては、かなり恵まれたポジションです。

 

得意分野を捨てなくていい

新しい技術が出てくるたびに「今やっていることを捨てて方向転換すべきか」と揺れる気持ちはよくわかります。周囲がAIや最新ツールの話題で盛り上がっているとなおさらです。

でも自分がこれまで積み重ねてきた経験や知識にはそれ自体に大きな価値があります。業界特有の商習慣を理解していること。取引先との信頼関係があること。品質や段取りの勘所が身についていること。こうした蓄積は短期間では手に入りません。

新しい技術は得意分野を捨てるためのものではなく、得意分野の中で使うためのものだと思っています。印刷に関わる仕事をしている人がAIを使って見積もりを効率化したり提案のスピードを上げたりするのは自然な流れです。でもそれは「印刷をやめてAIビジネスを始める」のとはまったく別の話です。

軸足は自分の強みに置いたまま、新しい道具は道具として取り入れる。このバランスが長くビジネスを続けるうえでは特に大事だと感じます。

 

5年後、10年後の景色

戦略

斜陽産業で粘るという戦略を取るとき大切なのは時間軸の感覚です。

「いつかゼロになる市場」に居座り続けるのはさすがにリスクがあります。でも多くの「斜陽」と呼ばれる産業は実際にはゆっくりと縮小しながらも長い間一定の規模を保っています。印刷業界もここ20年ほど縮小傾向にありますが、それでもまだまだ大きな市場です。

5年後、10年後に自分の事業が成り立つ程度の需要が残っているかどうか。この見極めさえできれば、その間に競合はさらに減り残った需要の中での自分のシェアはむしろ上がっていく可能性があります。市場全体のパイは小さくなっても自分が取れる割合は大きくなる。トータルで見れば売上は維持できるかもしれませんし、場合によっては伸びることすらあり得ます。

派手な成長曲線は描けないかもしれません。でもスモールビジネスに必要なのは急成長ではなく継続です。

流行を追うだけが戦略ではない

みんなが新しい方向に走っていく時代だからこそ「あえて残る」という選択肢にも目を向けてみてほしいと思います。

強敵は去り、新しい参入者も少なく、でも需要は残っている。そんな空間で自分の経験とスキルを活かしながら淡々と続けていく。地味ですがスモールビジネスの戦い方としてはかなり堅実です。

焦って流行に飛びつくよりも自分の足元を見つめ直してみる。案外そこにチャンスが転がっていたりします。

 

何かスモールビジネスをやるなら、緩やかに斜陽に向かっている産業に関わるのは意外とアリなのかもしれませんね。大手は撤退していくも、まだまだその産業を必要としている企業・人が一定数いるような所。

X (Twitter) – Jul 19, 2021

この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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トミナガハルキ

グラフィックデザイナー/AMIX 代表。独学でデザインを学び、パッケージメーカー→美容系ベンチャー→家庭用品メーカーでのデザイン・広報運営を経て独立。現在は小さな事務所を拠点にASOBOAD等のサービスを運営し、ロゴ・パッケージ・広告物を中心に制作しています。著書『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』は各カテゴリでベストセラーを獲得。2020年Adobe Creative Residency選出。ブログでは、10年以上の実務から学んだことや働き方のヒントを等身大の視点で発信しています。