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気持ちと色

気持ちと色

母の容態が少しずつ悪くなる頃、僕は時間を見つけては、母に会いに電車で最寄駅まで行き、タクシーに乗って母の入院する病院へ通っていました。

芳しくない母の様子を見るというのは、決して楽しいものではありませんでした。その足取りはとても重く、初秋の青空とは対照的なものでした。

僕が事務所でデザインをこなす時間は、ある意味生活をかけた戦いです。ただ、生死と向き合う母の姿は、それよりも圧倒的な現実としてグッと心の中に入り込んで来て、自分の”今日の昼飯は何にしよう”と考えたりするライトな現実が空想のように感じられました。

頭は冴えているし、お客さんとの取引も問題ない。でも何か、完全に目が覚めていないような、セピアの景色にいるような、不思議な感覚に包まれていました。

 

病院へと向かう道中はその感覚が強くなるのですが、空だけはいつもハッキリ青色に見えていて、その時間だけは自分のライトな現実に戻れる気がして、よくタクシーの窓からぼーっと空を眺めていました。

残念ながら母は冬を迎えることなく、母という存在以外は、徐々に元のリズムへと戻っていきました。

 

 

今日、その病院へ僕は軽い足取りで向かいました。妹が第一子を出産し、初の面会でした。赤ちゃんのいる部屋に差し込む陽の光まで、誕生を祝福してくれるように見えて、同じ建物とはとても思えませんでした。赤ちゃんって本当に赤いんだなーと、飽きずに眺めていました(笑)

希望や絶望という言葉がありますが、”望み”というのは色として目の前に現れるんだと実感しました。絶望は色が絶たれることで、希望は色に溢れることなんだなと。景色は心のフィルターを通って視覚化されるから、見えている景色は人によって全然違う。人生”色々”とはよく言ったものですね。

カラフルな人生を送りたいものです。

 

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グラフィックデザインを中心とした小さなデザイン事務所を経営しています。スタッフや外部のデザイナーさん・ライターさんに助けられながら、コツコツと地道に仕事をする日々が気に入っています。パッケージメーカーのデザイナーとして新卒入社→美容系のベンチャーに転職→家庭用品メーカーに転職...という流れを経て、その後独立しました。フリーランスデザイナーとして、10年以上の経験から学んだことや雑記をブログにしています。情報発信が趣味に近く、それが興じてPhotoshop関連の本を出版したり、noteを執筆したりしています。