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残業

「定時で帰るなんて、やる気がない証拠だ」
「若い頃の苦労は買ってでもしろ。俺たちの時代はもっと働いていた」

デザイン業界の片隅で、今もまだそんな声が聞こえてくることがあります。もちろん、好きで仕事に没頭する時間を否定するつもりは全くありません。一つのプロジェクトに深くコミットし、時間を忘れて打ち込む経験は、デザイナーとしてのかけがえのない財産になることも事実です。

でも、心のどこかでこう思っていませんか?

「会社のために自分の人生を犠牲にしたくない」
「長時間労働は、正直もうこりごりだ」

そう思うのは、決して甘えや怠慢ではありません。むしろ、自分の人生を大切に思うからこその、健全な感覚だと僕は思います。

 

「残業が当たり前」の環境で、僕たちが失っているもの

かつて僕が身を置いていた中には、残業が文化として根付いている会社もありました。定時に帰れるなんてことはなく、休日出勤もありました。周りもみんな同じように働いているから、それが「普通」なのだと思い込もうとしていました。

もちろん、その中で得られたものもゼロではありません。数多くの案件をこなす中で、デザインのスピードや対応力は確実に上がりました。厳しいクライアントとの折衝を通じて、コミュニケーション能力も鍛えられたかもしれません。

しかし、失ったものもそれなりにあったと、今なら断言できます。

一番大きかったのは、「自分の頭で考える時間」です。

日々の業務に追われ、次から次へと舞い込んでくる修正依頼をこなすだけで精一杯。目の前のタスクを片付けることに必死で、そのデザインが本当にユーザーのためになっているのか、もっと良い表現はないのか、といった本質的な問いと向き合う余裕はありませんでした。

ただ手を動かすだけの「作業者」になっていく感覚。新しい知識をインプットしたり、業界のトレンドを追いかけたりする時間も気力もなく、自分の引き出しがどんどん古くなっていく焦り。そして、プライベートの時間が削られることで、心身ともに疲弊していく…。

長時間労働は、短期的にはスキルアップにつながるように見えるかもしれません。しかし、時として、特定の業務を効率的にこなすための「作業スキル」に偏りがちです。長期的な視点で見れば、デザイナーとしての思考力や創造性を奪い、キャリアの可能性を狭めてしまう危険性をはらんでいます。

 

「時間がない」は、スキルが育たないことの免罪符にはならない

疲れ

「自分の人生を大切にしたい。だから、無駄な残業はしない」

この考え方は、100%正しい。

しかし、ここで一つ、胸に手を当てて考えてみてほしいことがあります。

「定時で帰った後、僕たちは何をしているだろうか?」

友人と食事に行く。趣味に没頭する。家族と過ごす。どれも素晴らしい時間の使い方です。心と体をリフレッシュすることは、良い仕事をする上で不可欠です。

ただ、もし「自分の時間を大切にする」という言葉を、「スキルアップのための努力をしなくてもいい」という免罪符のように使ってしまっているとしたら、それは少し危険なサインかもしれません。

厳しい現実ですが、デザイン業界は変化のスピードが非常に速い世界です。新しいツールが次々と登場し、求められるスキルも常に変化しています。昨日まで最先端だった表現が、今日にはもう時代遅れになっていることも珍しくありません。

そして、残念ながら、かつての僕たちが残業して身につけてきたようなスキルや経験値を、今もなお多くの時間を仕事に注ぎ込むことで得ているデザイナーがいるのも事実です。

彼らと同じ土俵で戦い、あるいはそれ以上の価値を提供していくためには、限られた時間の中で、いかに効率的に、そして戦略的にスキルを磨いていくかが重要になります。

自分の時間を大切にすることは、デザインという仕事から距離を置くことではありません。むしろ、自分の人生の主導権を握るために、より主体的にスキルと向き合うことなのだと、僕は考えています。

 

「会社のため」から「自分のため」のスキルアップへ

スキルアップ

では、具体的にどうすればいいのでしょうか。大切なのは、学習の目的を「会社で評価されるため」から「自分の市場価値を高めるため」へとシフトさせることです。

1. 「今の仕事」の周辺領域に手を伸ばす

まずは、現在担当している業務の「少し外側」にあるスキルを意識的に学んでみましょう。例えば、あなたがWebデザイナーなら、

  • コーディング(HTML/CSS, JavaScript)の基礎知識:エンジニアとの連携がスムーズになり、デザインの実現可能性も格段に上がります。
  • SEOやWebマーケティングの基礎:なぜこのデザインが必要なのか、ビジネスゴールにどう貢献するのかを語れるようになり、デザイナーとしての説得力が増します。
  • 文章力やコピーライティング:デザインに説得力を持たせる言葉の力を身につけることができます。ワイヤーフレームのテキスト一つにも、意図を込められるようになります。

すぐに今の仕事に活かせるだけでなく、将来フリーランスとして活動する際に、あなたの「できること」の幅を大きく広げてくれる武器になります。

2. 「自分の名前」でアウトプットする場を持つ

会社の名刺を外した時、あなたには何が残りますか?

個人のブログやSNS、ポートフォリオサイトなど、「自分の名前」でアウトプットする場を持つことは、スキルアップとセルフブランディングの両面で非常に効果的です。

  • インプットの質が上がる:人に説明することを前提に学ぶと、知識の定着率が格段に上がります。
  • 思考が整理される:自分の考えを文章やデザインにまとめる過程で、頭の中がクリアになります。
  • 思わぬ仕事につながる:あなたの発信を見た人から、新しい仕事の依頼が舞い込んでくることもあります。

大切なのは、完璧を目指さないこと。「こんなことを発信していいのだろうか」と躊躇する必要はありません。あなたが学んだこと、試行錯誤した過程そのものが、誰かにとって価値のあるコンテンツになります。

3. 時間の「投資先」を意識する

僕たちに与えられた時間は有限です。だからこそ、「何に時間を使うか」を意識的に選択する必要があります。

会社の飲み会に毎回参加する時間。目的もなくSNSを眺める時間。その時間を、例えば週に2時間でも、自分の未来のために投資してみませんか?

  • オンラインの学習講座に登録してみる。
  • 気になっていたデザイン関連の書籍を1冊読んでみる。
  • 小さな個人制作を始めてみる。

最初は小さな一歩で構いません。大切なのは、「自分の意思で、自分の未来のために時間を使う」という感覚を取り戻すことです。この小さな積み重ねが、1年後、3年後のあなたを、今とは全く違う場所へ連れて行ってくれるはずです。

 

自分の人生のデザイナーになろう

長時間労働をせずに、デザイナーとして成長し続ける。それは決して不可能なことではありません。むしろ、これからの時代を生き抜くデザイナーにとって、必須のスキルだと言えるでしょう。

会社に依存するのではなく、自分のスキルと市場価値を常に意識する。
目の前の作業に忙殺されるのではなく、長期的な視点で自分のキャリアをデザインする。

それは、会社のためではなく、他の誰でもない、あなた自身の人生を豊かにするための投資です。

「定時で帰ります」

その一言を、自信を持って言えるように。そして、会社の外に出た後も、ワクワクするような未来を描けるように。

 

デザイナーが長時間労働を嫌っても全然いいと思います。会社より自分の人生が大切ですからね。ただ、自分の人生を大切にしたいなら、日々の自己研鑽やスキルアップ・学習をしないのは、あんまりよろしくないと思います。

X (Twitter) – Aug 17, 2024,

この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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トミナガハルキ

グラフィックデザイナー/AMIX 代表。独学でデザインを学び、パッケージメーカー→美容系ベンチャー→家庭用品メーカーでのデザイン・広報運営を経て独立。現在は小さな事務所を拠点にASOBOAD等のサービスを運営し、ロゴ・パッケージ・広告物を中心に制作しています。著書『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』は各カテゴリでベストセラーを獲得。2020年Adobe Creative Residency選出。ブログでは、10年以上の実務から学んだことや働き方のヒントを等身大の視点で発信しています。