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デザイナーの就職

最近、SNSやウェブ広告を見ていると「最短○ヶ月でフリーランスデビュー」「未経験から即戦力」といった言葉がこれでもかと流れてきます。僕自身、デザイン事務所を運営している身なので、新しい人が業界に入ってくるのは大歓迎です。どんな入り口であれ、デザインに興味を持ってくれる人が増えるのは嬉しいことですから。

ただ、これから「飯を食っていく」ためのスキルを身につけようとしている人に対して、ひとつの選択肢が少し軽視されているのではないかと感じることがあります。

それは「専門学校」です。

今のトレンドは、オンライン完結の短期スクールやブートキャンプ型が主流なのかもしれません。でも、実際にデザインの現場で仕事をし、時には人を雇ったり、外注先を探したりする立場から見ると、専門学校が持っている「泥臭い強さ」は見逃せません。

少し遠回りに見えるかもしれないけれど、実は一番確実かもしれない「専門学校を経て就職する」というルートについて、現場の視点からお話しさせてください。

 

うちのような零細事務所にも「熱意」が届く

僕が運営しているような、少人数の決して大きくはないデザイン事務所。そんな場所にさえ、定期的に連絡をくれる人たちがいます。それが、専門学校の就職課の方々です。

「今の時期、新卒の採用予定はありませんか?」 「インターンだけでも受け入れてもらえませんか?」

最初は正直、「うちはそんな大規模に採用するような会社じゃないのになあ」と、少し不思議に思っていました。ただ、毎年変わらず丁寧に案内をいただくうちに、考えが変わってきました。

ものすごい「営業力」なんです。

大手企業だけでなく、僕たちのような小さな事務所にまで網を広げて学生の受け皿を探している。この「なんとかして学生を業界に送り込みたい」という執念にも似た熱意は、オンラインスクールのシステム化された就職サポートとは少し種類が違う気がします。

不思議なもので、毎年アプローチがあると頭の片隅にその学校の名前が残るようになります。「あそこの学校、今年も熱心だな」 「もし誰か手伝いが欲しくなったら、一度話を聞いてみようか」 そんなふうに、知らず知らずのうちに信頼が積み重なっている。これは、その学校が長年かけて築いてきた「業界とのコネクション」そのものです。

この「就職課」というバックアップ機能は、受講生が思っている以上に強力です。自分ひとりで求人サイトを眺めているだけでは絶対に出会えないような、ニッチだけれど技術力の高い制作会社や地元の優良なデザイン事務所への扉を、彼らはこじ開けてくれる可能性があります。

「就職」をゴールにするなら、この泥臭いサポート体制を利用しない手はありません。

 

「独学でなんでも学べる」時代の落とし穴

デザイナー

「でも、今はYouTubeもあるし、学習サイトも沢山ある。独学でも十分プロになれる時代でしょ?」

その通りです。僕が学生だった頃とは比べものにならないほど、今は質の高い学習リソースに恵まれています。ツールも安くなり、やる気さえあれば自宅でいくらでもスキルアップできる素晴らしい時代です。

けれど、情報が多すぎることは逆に足枷にもなります。

「Photoshopのチュートリアル」と検索すれば、数えきれないほどの動画が出てきます。ただ、その中のどれが今の自分に必要なのか。どの順番で学べば体系的な知識になるのか。初心者にとって、その「取捨選択」のコストはあまりにも高い。

あっちの動画でエフェクトを学び、こっちの記事でレイアウトを学び……と、つまみ食いをしているうちに、なんとなく「できる気」にはなりますが、いざ真っ白なキャンバスを前にすると手が動かない。そんな「独学の迷子」になってしまう人は少なくないように思います。

そこへいくと、専門学校には長年の教育ノウハウが蓄積されています。「まずはこれを理解してから、次にこれ」というカリキュラムは、何千人という学生を育ててきた歴史そのものです。お金を払うということは、単に情報を買うだけでなく、この「迷わなくて済む地図」と、強制的に机に向かう「環境」を買うということでもあります。

最近では、社会人向けの夜間クラスや週末コースを設けている専門学校も増えましたよね。一度社会に出た人が、安くない学費と貴重な時間を投資してでも通う価値が、そこにはあると判断されている証拠でしょう。

 

「就職」は便利なトレーニング期間

キャリア

僕が専門学校を推すもう一つの大きな理由は、その出口が「フリーランス」ではなく、基本的には「就職」に設定されている点です。

今のスクール広告では「会社に縛られず、自由に生きる」というフリーランスの魅力が強調されがちです。確かに魅力的ですし、僕自身も今は独立しています。でも、だからこそ断言できることがあります。

「最初は会社に入って、給料をもらいながら修行したほうが絶対にいい」

これには、大きく3つの理由があります。

1. 先輩の技を「盗める」環境

独学やオンラインスクールでは、完成された「正解」を見ることはできても、そこに至るまでの「リアルなプロセス」を見る機会はほとんどありません。会社にいれば、先輩デザイナーがどうやってアイデアを出しているのか、ショートカットキーをどう捌いているのか、クライアントからの理不尽な修正にどう対応しているのか、そのすべてを隣で見ることができます。 この「生きた教科書」が隣にいる環境は、お金を払っても手に入りません。むしろ、給料をもらいながらその技を盗めるのですから、こんなにお得なことはないはずです。

2. 「失敗」が許される

新人のうちは必ず失敗します。データの作り間違い、スケジュールの遅延、誤字脱字。会社にいれば、そのミスは上司がカバーしてくれます。もちろん怒られはしますが、最終的な責任は会社が取ってくれる。でも、フリーランスはいきなり「全責任」が自分です。一つのミスが、そのまま信用の失墜や、最悪の場合は損害賠償に繋がることもある。「守られた環境で失敗できる」というのは、新人が成長するために必要不可欠な特権です。

3. 業界の「商流」がわかる

デザインの仕事は、ただ綺麗なグラフィックを作るだけではありません。見積もりの出し方、契約書の巻き方、印刷会社への入稿データの作り方、クライアントとの折衝、請求書の発行タイミング。こういった「お金と仕事の流れ」を、実務の中で肌感覚として理解できるのは大きいです。独立してから一番苦労するのは、往々にしてデザインそのものよりも、こういったバックオフィス的な業務や商習慣の理解不足だったりします。

 

フリーランスの孤独と、叱ってくれる人の温かさ

デザイン事務所

最後に、少し個人的な話をさせてください。

フリーランスとして、あるいは零細事業経営者として活動している今、痛感することがあります。それは、「誰も本気で叱ってくれない」ということです。

会社にいれば、理不尽なことで怒られることもあるでしょう。「もっとこうしろ」「なんでこんなこともできないんだ」と。その時はうるさいなと思うかもしれません。でも、それは裏を返せば「君の成長に期待している」「君に一人前になってほしい」というメッセージでもあります。

独立してしまうと、誰も僕の将来の心配なんてしてくれません。 仕事のクオリティが下がっても、マナーが悪くても、クライアントは何も言わずに去っていくだけです。叱られる代わりに、静かに仕事がなくなる。それがフリーランスのリアルです。

「このままだと将来困るぞ」とお節介を焼いてくれる上司もいなければ、失敗した後に飲みにつれていってくれる先輩もいない。すべての判断と結果を一人で背負わなければなりません。

だからこそ、最初のキャリアとして「組織」に属することをお勧めしたいのです。 デザインの基礎体力だけでなく、社会人としての足腰を鍛えてもらえる場所。それが制作会社やデザイン事務所という現場であり、そこへのパスポートを一番手堅く持っているのが専門学校だと思うのです。

遠回りに見える道が、実は一番の近道かもしれない

もちろん、専門学校に行けば自動的にプロになれるわけではありません。学校ごとのレベルの差もあるでしょうし、最終的には本人の努力次第です。また、事情があってどうしても通学が難しい人もいるでしょうから、オンラインスクールを否定するつもりもありません。

ただ、「食えるようになる」という観点で見たとき、「体系的なカリキュラムで学び」 「就職課のサポートを受けて制作会社に入り」 「現場で揉まれながら実力をつける」 という王道のルートは、やはり理にかなっているように感じています。

「専門学校なんて今さら」と思わず、選択肢の一つとしてフラットに見直してみる。それは、これから長く続くデザイナー人生を、太く長く生き抜くための賢い戦略に他ならないと思います。

一見華やかに見える「いきなりフリーランス」の看板に惑わされず、自分の足でしっかりと立つための準備期間として、学校や就職というプロセスを大切にしてみてはいかがでしょうか。

 

食えるようになるスクールという観点なら「専門学校」も忘れてはいけない気がします。うちみたいな零細事務所にも連絡が来るほど、インターンや就職先づくりには熱心ですし、社会人向けのクラスがある所も多くなりましたよね。フリーランスではなく、就職という形ですが。

X (Twitter) – Jun 23, 2024

この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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トミナガハルキ

グラフィックデザイナー/AMIX 代表。独学でデザインを学び、パッケージメーカー→美容系ベンチャー→家庭用品メーカーでのデザイン・広報運営を経て独立。現在は小さな事務所を拠点にASOBOAD等のサービスを運営し、ロゴ・パッケージ・広告物を中心に制作しています。著書『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』は各カテゴリでベストセラーを獲得。2020年Adobe Creative Residency選出。ブログでは、10年以上の実務から学んだことや働き方のヒントを等身大の視点で発信しています。