流通パッケージ

米国Amazon(アマゾン)のブランド刷新がおこなわれたことを、プロジェクトを手がけたクリエイティブエージェンシーKotoが、2025年4月に同社のサイトで公表しました。

小文字で組んだブランド名「amazon」とカーブする矢印とを組み合わせたロゴデザインを見ない日はないと言ってもいいでしょう。

欲しい商品の評価や値段を調べるとき、目的にあった商品がどこかにないか探すとき。自分が「ポチった」商品でなくても、だれかのもとへ宅配されるカートンにもAmazonのロゴを簡単に見つけられます。

ほほえむ口元にも見える矢印のついたロゴが登場したのは2000年です。新しいロゴを単独で見ただけでは、これまで使われてきたデザインとの違いは、わからないかもしれません。

今回のブランドリニューアルで何が変わったのかを見てみましょう。

シンボルマークも色も書体もアップデート

先代ロゴも新ロゴも、ブランド名と矢印の組み合わせという構造自体は同じです。

しかし、ふたつのデザインを並べてよく見ると、全体的に手が加えられていることがわかります。

矢印から笑顔へ

英語には「何から何まで」という意味の「a to z」という慣用句があります。Amazonのロゴの「a」から「z」に伸びた矢印は、それを視覚的に示すために考え出されたデザインです。つまり、欲しい商品が「すべて」揃っていることをアピールするのが目的でした。

しかし、Amazonがあらゆる商品を取り扱っていることは、現在多くのひとが認識しています。矢印で「a to z」を強調する必要はないのかもしれません。

そこで、クリエイティブエージェンシーKotoは、矢印ではなく、「より深く力強い笑顔」を前面に押し出すことにしました。Kotoの公式サイトでは次のように説明しています。

「この笑顔は、お客様を喜ばせ、暮らしをより便利にするというAmazonのミッションを反映しています」

具体的な矢印シンボルの新旧の違いは、大きく太くなったことです。ストロークのニュアンスも調整され、エッジには丸みが付けられました。また、オレンジの赤みが強くなり、より明るく鮮やかになっています。

リニューアル以前からほほえむ口元に見えていましたが、これらの調整によって、あたたか味のある笑顔の印象が強まりました。シンボルマーク単独だと、印象の違いがより際立つように思います。

丁寧に手直しされた書体

新旧ロゴを見比べると、オレンジの矢印の変化だけでなく、ロゴタイプの印象が変わったことにも気づきます。新しいデザインの方が少し引き締まっています。

小文字「a」の違いがもっともわかりやすいです。

先代のロゴでは、テール(しっぽ)に角度がついていて、矢印に向かって自然な流れができています。

新しいロゴでは、「a」のテールはかなり下向きになりました。また、文字幅も少し狭く、微妙にコンデンスがかかっているように見えます。

この結果、小文字の「a」と「m」の字間が狭まりました。統一感を保つために「zon」の字間も狭くなっています。また、「m」「z」「o」「n」の文字もそれぞれカーブやストロークの調子などに、こまかい手直しがほどこされました。この結果、ロゴタイプ全体の印象が緊密になりました。

明るい笑顔となった新しいAmazonロゴは、2024年末に登場しました。米国の掲示板型SNSサイト「Reddit」には、早くも11月初旬に、アプリのロゴが変わったことに気づいたユーザーの投稿がありました。

ロゴのリニューアルは、アプリに限らず、サイトやパッケージなど、あらゆるタッチポイントで進められています。

オンライン書店から巨大ハイテク企業へ成長

Amazon

Mike Mareen – stock.adobe.com

Amazonの最初の業態は、オンライン書店でした。

オンライン書店を皮切りにカテゴリーを拡大

Amazonの創業者ジェフ・ベゾスが、1994年にワシントン州シアトルで、オンラインストアを始めるために会社を設立しました。その後社名を変更。1995年7月に「Amazon.com」がオンライン書店としてのサービスを開始しました。

ジェフ・ベゾス
ジェフ・ベゾス / via Wikipedia

この当時は、インターネット経由のネットショップ市場が生まれたばかりでした。その先進性をアピールするために、「〇〇.com」「□□ドットコム」と、ドメイン名を含めてブランド名にすることが流行しました。

1998年に、書籍に加えてCDの販売も開始します。2000年には日本語サイト「Amazon.co.jp」がオープン。

2000年代には、ソフトウェア、TVゲーム、エレクトロニクス、ホーム&キッチン、おもちゃ&ホビーと、取り扱う商品のカテゴリーを次々に増やしていきます。その後も、コスメ、食料&飲料、ジュエリーなど、オンラインストアの拡充が進められました。

販売商品の拡充以外にも、あたらしいサービスや新製品の開発もAmazonは手がけます。

2005年には会員サービス「Amazon Prime(アマゾン・プライム)」を開始。2007年には電子書籍端末「Kindle(キンドル)」を発売します。2014年には、音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」を搭載したスマートスピーカー「Amazon Echo(アマゾンエコー)」を発売するなど、事業の拡大を図ってきました。

世界トップクラスのクラウドサービス「AWS」

AWS

Ryan – stock.adobe.com

現在のAmazonの事業は多岐にわたります。オンラインストアによる直販、第三者販売サービス、Amazon Web Service (AWS) が三本柱です。

売上の約4割を占めるオンラインストアは、消費者にもっともなじみのあるAmazonの顔と言えます。第三者サービス事業は、Amazonのプラットフォーム上で他者が販売するときの手数料や物流サービス料などで利益を得ています。これは売上全体の4分の1になります。

AWSは、サーバー、ストレージ、データベース、AIなど、200以上のサービスを提供するクラウドサービスです。売上比率は全体の2割以下ですが、利益率が高く、全社の半分以上の営業利益を得ている重要な部門です。

AWSは、200以上のサービスとグローバルなインフラで、企業の多様なニーズに応えるクラウドサービスです。現在、世界のクラウド市場でトップシェアを獲得しています。

50以上のサブブランドを含む大規模リブランディング


このように、Amazonは、インターネット通販企業という枠を超え、さまざまなサービス、事業を展開するメガハイテク企業です。

今回のブランドリニューアルは、グループの統括企業である「Amazon.com, Inc.(アマゾン・ドット・コム・インク)」のロゴデザインを刷新しただけではありません。関連する事業体やサービスをすべてを含めた「包括的な」プロジェクトです。

一貫性を追求した「グローバルブランド変革」

英国ロンドンを拠点とする世界的クリエイティブエージェンシーKotoの米国ニューヨーク支社が、Amazonの社内ブランドチームであるAmazon XCMとともに、新しいブランドシステムを構築しました。

「このプロジェクトは、18か月にわたり、世界15の市場と50以上のサブブランドを巻き込んで進められました」

Amazonの急激な事業拡大のマイナス面としてブランドの混乱が生じていました。Kotoは次のように説明しています。

「ブランドシステムは、チーム、地域、そしてユーザー体験全体でばらばらになってしまい、その結果、迅速かつ優れたクリエイティブを提供することが困難になることもありました」

この課題を解決するためのプロジェクトが今回のブランドリニューアルだったのです。

Kotoは、今回のプロジェクトを「Global Brand Transformation」(グローバルブランド変革)であるとしています。

ここで「global(グローバル)」と言っているのは、単に「世界的な・国際的な」という意味だけではありません。世界の15の市場という地理的な広がりに加え、50以上のサブブランド、複数のチーム、さまざまなサービスをカバーする、Amazonグループ全体の「包括的な」ブランドシステムの構築を目指したのです。

これまでは、Amazonブランドも、Prime、Kindle、Alexaといったサブブランドも、互いに無関係に世界共通のブランドアイデンティティを展開してきました。しかし、今回の「ブランド変革」によって、異なるブランドのサービスやプロダクトであっても、Amazonとしての一貫したユーザー体験を提供することができるようになります。

Amazonのスピード感に対応できるブランドシステムの構築

Amazonは、意思決定と実行を迅速におこなって新サービスを次々と生み出す「スピード経営」を経営哲学としています。

このことは、ブランディングに関して言えば、新サービスやプロダクトの誕生などに応じて、すばやく新ブランドを立ち上げたり、ビジュアルアイデンティティをアップデートしなければならないということです。

これまでは、「Amazonのスピード」に合わせ、顧客のニーズがあればすぐに事業を立ち上げていました。

「その際、ロゴは個別に、急いで作成されることが多く、結果としてブランドアイデンティティはばらばらで一貫性のないものになっていました」(Koto公式サイト)

ブランドやサービスごとに独自の判断で対応してきたために、先に述べたような混乱が生じてしまいました。

Kotoは次のようにコメントしています。

「(あたらしいブランドシステムには)Amazonのスピードに対応できるよう設計されたグローバルなアーキテクチャが含まれています」

新しいブランドシステムは、温かみの増した「スマイル」(矢印)や、モダンになったロゴ、新しい書体ファミリー、統一的なカラーパレットなどの構成要素を提供することによって、全ブランドで一貫性を保ちつつ、Amazonのスピードに対応できるように設計されています。

書体「Amazon Logo Sans」「Ember Modern」と鮮やかな「スマイルオレンジ」

Kindle

ブランドシステムの一貫性と柔軟性を実現するために、ふたつの新しいオリジナル書体とリニューアルされたカラーパレットが重要な役割を果たしています。

ロゴ用のオリジナル書体「Amazon Logo Sans」

この記事の最初のセクションで、ロゴタイプの書体の変更点について触れました。新しいロゴタイプに使われているのは、オリジナル書体「Amazon Logo Sans(アマゾン・ロゴ・サンズ)」です。ブランドによって異なっていたロゴタイプのスタイルを統一するために開発されました。

サブブランドの多くは、「Amazon」とサブブランドの組み合わせです。たとえば、「Amazon Basics」「Amazon Fresh」「Amazon Pay」「Amazon Music」といった具合です。

従来のロゴタイプのデザインは、Amazonのロゴタイプに続く「Basics」「Fresh」「Pay」「Music」などのサブブランド名に使われる書体がまちまちでした。

また、Amazonロゴの矢印やサブブランドテキストに、さまざまな色が設定されていたり、Amazonのロゴタイプとの間にスペースがあったりなかったりしています。

さらに、矢印のシンボルマークも、あえてよく言えば「臨機応変」に処理されたりしていて、新しいロゴが必要になるたびに、その都度デザインしたことがうかがい知れます。

新しいブランドシステムでは、Amazonロゴ部分は不変。その右に添えられるサブブランド名も書体「Amazon Logo Sans」で統一されています。新しいブランドが生まれても、そこのテキストを入れ替えるだけです。どの事業部門で新ブランドを立ち上げても、Amazonグループのブランドフォーマットから逸脱することはありません。

「その結果、現在ではブランド全体のすべてのロゴが一貫性を持ち、正確で、わずか数秒で作成できるようになりました。これにより、チームはブランドの統一性を損なうことなく、さらに迅速に動けるようになっています」(Koto公式サイト)

さまざまな環境と言語で一貫性を可能にする書体「Ember Modern」

もうひとつの書体ファミリー「Ember Modern」も用意されました。

Amazonは2016年に電子書籍リーダー「Kindle」を発売しました。このときにKindle用にオリジナル書体「Ember」が開発されました。Kindleの画面で読みやすく、長時間の読書でも疲れないことが目的でした。

Kindle画面用に作られた書体でしたので、それ以外の用途には必ずしも適していませんでした。しかし、会社が成長するにつれ、用途に合わないとわかっていても、リアルな環境、デジタル環境を問わず「Ember」を使ってきました。デザイン的観点から「Ember」だけでは不十分な場合に、他のフォントと混ぜてしまうことが頻繁にありました。

この問題を解決するために作られたのが「Ember Modern」です。6種のウェイトと36種のスタイルを持つフォントファミリーで、きわめて豊かな表現力が得られます。

「(Ember Modernは、)インパクトのあるマーケティングで大胆かつ遊び心のある表現ができる一方で、デジタル体験の機能的な場面では控えめで静かな役割を果たす、グローバルなフォントのニーズを満たすものです」(Koto公式サイト)

Amazonは世界中で事業をおこなっているので、「Ember Modern」の開発にあたって核となる課題は言語でした。さまざまな言語でAmazonを利用するカスタマーに、統一したユーザー体験を提供することです。

この課題を解決するため、KotoはタイプファウンダリNaNと協力し、文化や文字、文脈を超えて機能するフォントを設計しました。NaNは、ベルリンを拠点とするタイプファウンダリです。

「その結果、英語、日本語、ラテン文字、キリル文字など364言語に対応する、単一のタイポグラフィシステムが完成しました」(Koto公式サイト)

日本語には「Ember Modern Japanese」が提供されています。

ちなみに、以前の「Ember」を開発したスタジオはNaNとは別のです。新書体「Ember Modern」は書体名を引き継いではいるものの、一からデザインしたのだろうと推察されます。

「スマイルオレンジ」と彩度を調整した新カラーパレット

カラーパレットのアップデートでは、まずオレンジの見直しから始まりました。ブランド内に複数存在していたオレンジ色を「スマイル・オレンジ」として統一。落ち着いたトーンだった以前に比べ、鮮やかになっています。

「スマイル・オレンジ」についてKotoは次のようにコメントしています。

「この大胆で鮮やかな色合いは、ブランドに吹き込むエネルギーと合致し、より強く、そして親しみやすい色になりました」

「Prime」のブルーは、デジタルファーストを意識して、彩度が高められています。

その他のサブブランドも「個性的で、自信に満ちた、楽しいカラー」にアップデートされました。

Amazon、Prime、Alexa、そしてサブブランドのグループ化

Alexa

今回のリブランディングでは、統一性と一貫性、そして柔軟性を同時に成立させるための取り組みが大胆かつ精密におこなわれています。

ブランド階層と横断的サブブランド

ロゴデザインを合理的に整理しただけではありません。「親ブランド」であるAmazonのもとで、サブブランド全体の階層とグループが体系的に見直されました。

特定の商品やサービスに特化せず、あらゆる側面でユーザーとつながっているPrimeとAlexaは「横断的サブブランド」と位置付けられています。

このふたつのブランドは、Amazonのマーケティング戦略上、とても重要な役割を果たしています。Primeは、顧客の囲い込み、データ取集、新規顧客の獲得という役割があります。Alexaは、ユーザーの生活に深く入り込んでタッチポイントを増やす「Alexa Everywhere(どこでもAlexa)」戦略を実現するためのツールです。

ロゴデザインとブランドカラー

そこで、PrimeとAlexaは、Amazonロゴとの組み合わせではなく、それぞれのロゴタイプの下に笑顔の矢印を添えるデザインになりました。ブランドカラーは、Primeがブルー、Alexaがライトブルーです。

傘下ブランドと独立ブランドを除く、それ以外のサブブランドのロゴはすべてAmazonロゴとの組み合わせとしました。

ハウスブランドとカテゴリー整理

Amazon Basics、Amazon Elements、Amazon Essentialsなどのプライベートブランド商品、法人・個人事業主向けの通販サービスであるAmazon Business、そしてAmazon Photos、Amazon Pay、Amazon Lockers、Amazon Kidsといった自社サービスは、「ハウスブランド」としてひとつのグループにまとめました。ブランドカラーは「スマイルオレンジ」に統一。

また、それ以外のサブブランドについては、ユーザーや用途にもとづいて、食品カテゴリー、ヘルスケアカテゴリー、デバイスカテゴリーに振り分けました。

他分野への示唆

このAmazonのブランドシステムの再構築プロセスは、Amazonのようなメガテック企業でなくても参考になります。

リブランディング前の混乱については、クリエイティブ分野やマーケティング、セールスプロモーションにたずさわっているひとであれば、同じようなケースに思い当たるでしょう。

たとえば、食品の定番商品に対して、これまでになかった新テイストの商品を発売することになったときに、そのパッケージデザインや商品ロゴをどうするかという場合です。

新テイストがうまくいって、将来バリエーションが増えるかもしれません。その可能性を見すえて、システマティックにデザインを検討することは決して無駄ではないでしょう。プレゼンテーションの説得力も増すかもしれません。

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この記事の執筆・運営について

執筆・編集ASOBOAD編集部

デザイン制作の現場で得た知識をもとに、実務に役立つ情報を整理してお届けしています。

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ASOBOADの運営と、デザイン制作業務の進行管理を担っています。