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デザイナーの交通整理

打ち合わせの席で、クライアントの方が話しはじめると、よくこういう場面に出くわします。「ターゲットは若い女性で、でも信頼感も出したくて、あ、あと社長がブルーが好きで、競合の◯◯みたいな感じはちょっと違うんですけど、でもああいう抜け感は欲しくて……」

メモを取りながら、頭の中で交差点が浮かびます。情報が四方から入ってきて、信号がなくて、誰も止まれずにぶつかりそうになっている、そんな景色です。

僕の仕事は、たぶんここから始まっています。

 

「ビジュアルを作る人」という見え方

デザイナーという肩書きは、外から見るとかなり華やかに映るらしくて、初対面の方に職業を伝えると「センスがあるんですね」と言われたりします。実際にはセンスというより、地道な作業の積み重ねで成り立っている気がするのですが、まあそれはさておき。

【デザイナー=ビジュアルを作る人】という理解は間違ってはいないと思っています。最終的なアウトプットがビジュアルである以上、その通りなんですよね。ただ、仕事時間のうちビジュアルを実際に手で作っている時間は、思っているよりずっと短いかもしれません。

では残りの時間で何をしているかというと、情報を整理しています。聞いて、ほどいて、並べ直して、優先順位をつける。それを延々とやっています。

 

渋滞しているのは情報のほう

情報の渋滞

クライアントの方は、自分の事業やサービスについて、誰よりも深く考えています。だからこそ、伝えたいことが大量にあって、しかもそれぞれが大切で、捨てられません。打ち合わせで出てくる要望が渋滞気味になるのは、ある意味で健全な状態だと思っています。考えていない人からは、そもそも言葉が出てきません。

ただ、情報は多ければ多いほど伝わるかというと、そうではなくて、むしろ逆に近いです。全部を同じ強さで言われた瞬間、受け取る側はどれも受け取れなくなります。看板に書いてある文字が多すぎて結局何の店かわからない、あの感覚に近いかもしれません。なので、僕がまず始めるのは、情報の前で立ち尽くすことです。

「はい、あなたはまずこっちに行ってください」「君はちょっと一旦待っててね」「あ、あなたは今回の信号では出番がないかも」と、頭の中で交通整理をしていきます。クライアントの言葉を否定するわけではなくて、優先順位と順番を組み直しているだけです。

 

整理してから形にする

この整理が済まないうちにビジュアルに手をつけると、だいたい途中で破綻します。何を一番強く見せたいのかが定まらないまま色や配置を決めても、後から「やっぱり信頼感をもう少し」「いや、若々しさを足したい」と要望が増えていって、画面の中でまた渋滞が起きます。最初の打ち合わせで起きていた渋滞が、ビジュアルの中に引っ越してきただけ、という状態ですね。

逆に、整理さえ済んでしまえば、ビジュアル化の工程はわりとスムーズに進むことが多いです。「この案件で一番強く出すのは信頼感、次に親しみやすさ、若々しさは添える程度」と決まっていれば、色も書体もレイアウトも、それに沿って選んでいくだけになります。決まっていないから迷うのであって、決まっていれば迷う余地が減ります。

ビジュアル化の段階でも、実は交通整理は続いています。画面の中でどの要素を先に見てほしいか、どこで一度止まってほしいか、視線をどう動かしてほしいか。それを設計しているので、結局のところ最後まで整理の仕事だな、と思いながら作業しています。

 

「センスがある人」より「ちゃんと聞ける人」

デザイナー

そういうわけで、いいデザイナーを選ぶときに見るべきポイントは、たぶんポートフォリオの華やかさだけではない気がしています。もちろん作風が合うかは大事なんですが、それと同じくらい、最初の打ち合わせでこちらの話をどれくらいほどいてくれるか、というところを見てもらえるといいかもしれません。

質問が的確で、要望をそのまま受け取らずに「それは具体的にはどういうことですか」と踏み込んでくれる人は、後の工程で渋滞を起こしにくいです。逆に、最初の打ち合わせで全部「わかりました、やってみます」と言ってくれる人は、気持ちはいいんですが、整理されないまま作業に入っていくので、後で揉めやすかったりします。

整理の仕事は、デザイナーに限らない

ここまで書いてきて思ったのは、これってデザイナーに限った話ではないかもしれないということです。

どんな仕事でも、依頼してくる相手の中には情報の渋滞があって、それをほどく工程が必ずどこかに入っている気がします。エンジニアも、編集者も、営業も、たぶん料理人も。表に出るアウトプットの裏で、それぞれが自分なりの交通整理をしているのではないかと思っています。

僕の場合はそれがたまたまビジュアルという形で出てくるというだけで、本質的にやっていることは案外、他の職種の方とそんなに変わらないのかもしれません。

 

デザイナーの仕事は華やかなビジュアルを作ることだと思われがちですが、実態は「交通整理」に近いですよね。クライアントの中で渋滞している情報を、「はい、あなたはこっち」「君は一旦待ってて」と整理して、スムーズに流れるようにする。

X (Twitter) – Nov 21, 2025

この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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トミナガハルキ

グラフィックデザイナー/AMIX 代表。独学でデザインを学び、パッケージメーカー→美容系ベンチャー→家庭用品メーカーでのデザイン・広報運営を経て独立。現在は小さな事務所を拠点にASOBOAD等のサービスを運営し、ロゴ・パッケージ・広告物を中心に制作しています。著書『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』は各カテゴリでベストセラーを獲得。2020年Adobe Creative Residency選出。ブログでは、10年以上の実務から学んだことや働き方のヒントを等身大の視点で発信しています。