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契約

フリーランスとして活動していると、デザイン制作そのものと同じくらい、いや、それ以上に気を使うのがクライアントとのコミュニケーションです。中でも、契約書の話になると、なんだか身構えてしまう人も多いのではないでしょうか。

「なんだか難しそう…」
「細かいことを言って、相手の機嫌を損ねたらどうしよう…」
「よく分からないけど、まあ、大丈夫だろう」

駆け出しの頃の僕も、まさにそうでした。分厚い書類を前に思考が停止し、波風を立てるのが怖くて、言いたいことを飲み込んでしまう。そんな経験が何度もあります。

でも、たくさんの失敗と成功を繰り返す中で、今でははっきりとこう思えるようになりました。

契約は、僕たちクリエイターとクライアントが、最高の仕事をするための「共通のルール作り」なのだと。

この記事では、契約に苦手意識を持っているクリエイターに向けて、僕が普段から実践している契約書との向き合い方や、クライアントと対等なパートナーシップを築くための交渉のコツをお話しします。難しい法律の話ではなく、明日からすぐに使える実践的な内容です。この記事が、あなたの不安を少しでも軽くできたら嬉しいです。

 

「言いにくい」から「当たり前」へ。契約は最高の仕事への第一歩

まず、一番大切なマインドセットからお話しさせてください。

契約内容について自分の意見を伝えることを、「言いにくいこと」「波風を立てる行為」だと感じる必要は全くありません。むしろ、プロジェクトの成功という共通のゴールを目指す仲間として、最初に「お互いが気持ちよく走るためのルール」を確認し合う、ごく自然で、とても大切な行為です。

例えば、初めて一緒に冒険に出る仲間と、地図の読み方や役割分担を事前に話し合うのは当たり前ですよね。契約書は、まさにその冒険の地図のようなもの。進むべき道、想定されるリスク、トラブルが起きた時の対処法など、プロジェクトの全体像が示されています。

この地図を最初にしっかり確認しておけば、「こんなはずじゃなかった」という道迷いを防ぎ、お互いが安心して目の前のクリエイティブ(制作)に集中できます。

だから、契約内容の確認や交渉は、決して相手を疑うネガティブな行為ではありません。むしろ、このプロジェクトを本気で成功させたい、というポジティブな意思表示です。

「交渉も、プロの仕事のうち」。

この意識を持つだけで、契約書に向き合う気持ちが少し楽になるはずです。

 

まずはここから。僕が必ずチェックする契約書の2つのポイント

契約書

とはいえ、契約書のどこから見ればいいのか分からない、という人も多いと思います。もちろん、全ての条文に目を通すのが大前提ですが、特に僕たちデザイナーが注意して確認すべきポイントがあります。

今回は、特に重要だと僕が考えている「著作権」と「二次利用」について掘り下げてみます。

1. そのデザイン、誰のもの?「著作権」の行方

「著作権」と聞くと、一気に難しく感じますよね。でも、とてもシンプルに言えば「作ったデザインを、誰が、どのように使えるか」という権利のことです。

契約書でよく見かけるのが、

「制作物の著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)は、対価の支払いをもって、甲(クライアント)に移転する」

といった一文。

これは、「デザイン料を支払ってもらったら、そのデザインに関するほぼ全ての権利をクライアントに譲ります(譲渡します)」という意味です。一度譲渡してしまうと、例えば僕たち制作者が自分の実績としてポートフォリオサイトに掲載することさえ、クライアントの許可が必要になるケースがあります。

もちろん、それが悪いわけではありません。プロジェクトの性質によっては、著作権の完全譲渡が適切な場合もたくさんあります。

大切なのは、「今回の仕事において、本当に著作権の譲渡が必要なのか?」を一度立ち止まって考えてみることです。

例えば、Webサイト用に作ったイラストを、クライアントが自社のSNSで使う程度であれば、著作権を譲渡せずとも、「WebサイトとSNSでの利用を許諾(ライセンス)します」という形で十分なケースもあります。

もし契約書に「著作権の譲渡」と書かれていたら、こんなふうに確認してみるのはどうでしょうか。

「第〇条の著作権譲渡の項目について、少しご相談させていただけますでしょうか。今回の制作物のご利用範囲を鑑み、著作権は当方で保持させていただき、貴社でのご利用については範囲を定めた形で許諾させていただく、という形はいかがでしょうか?」

このように、ただ「嫌です」と伝えるのではなく、代替案を提示することで、相手も検討しやすくなります。

2. 作った後どう使われる?「二次利用」の範囲

「二次利用」とは、最初に想定されていた目的以外で、制作物を利用することです。

例えば、「Webサイトのメインビジュアル用に作ったイラストを、パンフレットやグッズにも使いたい」といったケースがこれにあたります。これも、デザイナーにとっては非常に重要なポイントです。

最初に聞いていた利用範囲と、後から発生する利用範囲とでは、僕たちが提供する価値が全く異なります。そのため、二次利用に関しては、別途協議の上、追加の費用をいただくのが一般的です。

この認識のズレを防ぐため、契約書で利用範囲を明確にしておくことが大切です。

もし契約書に二次利用に関する記載がなければ、以下のような一文を追記できないか打診してみるのも一つの手です。

「当初の目的(例:〇〇のWebサイトでの利用)以外で制作物を利用される場合は、別途協議とさせていただけますでしょうか。」

最初にこの一文を入れておくだけで、後々の「言った・言わない」のトラブルを劇的に減らすことができます。「最初に言っておいてくれて助かったよ」と、クライアント側から感謝されることさえあります。

 

角を立てずに伝える。明日から使える交渉の進め方

ビジネスメール

ここまで読んで、「確認すべきポイントは分かったけど、どうやって伝えればいいの…?」と感じているかもしれません。

大丈夫です。少しのコツで、コミュニケーションはずっとスムーズになります。

記録に残すのが鉄則

僕が徹底しているのは、契約に関するやり取りは、必ずメールなど文章で記録に残すということです。

電話や打ち合わせで話がまとまることもありますが、その場合も必ず、打ち合わせ後に「先ほどお話しさせていただきました件、念のため内容を下記にまとめさせていただきます」といった形でメールを送り、お互いの認識が合っているかを確認します。

これは、自分の身を守るためだけではありません。相手にとっても「確かに、こう話したな」と再確認できるため、認識の齟齬が生まれにくくなります。人間の記憶は曖昧なもの。だからこそ、文章という客観的な記録を残すことが、お互いの信頼関係に繋がります。

伝え方の基本は「相談」と「提案」

契約内容の変更をお願いする時、つい「この条項は承諾できません」のように、強い言葉を使ってしまいがちです。でも、これでは相手も身構えてしまいますよね。

大切なのは、否定から入るのではなく、「相談」や「提案」の形にすることです。

例えば、先ほどの著作権の例でも使ったように、

「〜という形にご調整いただくことは可能でしょうか?」

「〜について、一度ご相談させていただけますでしょうか?」

といった、柔らかい言葉を選ぶのがおすすめです。

さらに、「なぜ変更したいのか」という理由を添えると、より納得感が増します。その理由は、自分本位なものではなく、「今後のプロジェクトをスムーズに進めるため」「後々の認識の齟齬を防ぐため」といった、双方にとってメリットのある視点で伝えるのがポイントです。

クライアントも、プロジェクトを成功させたいという気持ちは同じはず。こちらの意図がきちんと伝われば、多くの場合は真摯に耳を傾けてくれ、柔軟に対応してもらえます。

 

契約は、未来の自分とクライアントを守るお守り

契約書と向き合うことは、時に面倒で、勇気がいる作業かもしれません。

でも、最初に少しだけ時間とエネルギーをかけて「お互いのためのルール作り」を丁寧に行うことで、僕たちクリエイターは安心してデザインという本来の仕事に集中できます。そして、クライアントも不安なくプロジェクトを任せることができる。

その結果、より良いものが生まれ、長期的な信頼関係に繋がっていくのではないでしょうか。

契約は、相手を縛るための鎖ではなく、未来の自分と大切なクライアントを守るためのお守りのようなものです。

 

大きな会社との仕事だと、依頼前にいくつか書類を交わすことはよくあることですが、ちゃんと契約書類に目を通して、気になる点があれば「この条項のこの部分は承諾できない」とか「〇〇に変えて欲しい」と伝えます。大抵の場合は書類をカスタムしていただけました。契約は双方で作り上げたいですね。

X (Twitter) – Aug 4, 2023,

この記事は過去の自分のX(Twitter)のポストを元に、編集しています。

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トミナガハルキ

グラフィックデザイナー/AMIX 代表。独学でデザインを学び、パッケージメーカー→美容系ベンチャー→家庭用品メーカーでのデザイン・広報運営を経て独立。現在は小さな事務所を拠点にASOBOAD等のサービスを運営し、ロゴ・パッケージ・広告物を中心に制作しています。著書『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』は各カテゴリでベストセラーを獲得。2020年Adobe Creative Residency選出。ブログでは、10年以上の実務から学んだことや働き方のヒントを等身大の視点で発信しています。