
フリーランスは本当に稼げるのか? 世界と日本の年収事情をデータで読み解く
フリーランスとして自由な働き方を選ぶ人が、ここ数年で急速に増えています。コロナ禍をきっかけにリモートワークやオンラインでの仕事が定着し、国や業種を問わず「自分のスキルを活かして柔軟に稼ぐ」スタイルが世界的に広がっているのです。とりわけ、デザイナーやクリエイターといった職種のフリーランスは、最新ツールの普及やデジタル化の後押しもあって、その市場規模がさらに拡大傾向にあります。
とはいえ、「フリーランスは本当に稼げるのか?」「会社員に比べて収入に違いはあるの?」といった疑問を持つ人も少なくありません。そこで本記事では、日本国内と海外におけるフリーランスの年収・収入分布に焦点を当て、公的機関や企業の調査レポートをもとに最新の実態を解説します。平均年収や中央値、職種別・地域別による違いを知ることで、これからフリーランスとして活動したい方も、すでに活躍中の方も、より現実的な視点を得られるはずです。
国内フリーランスの年収・収入分布
日本におけるフリーランス全体の年収分布
日本国内のフリーランス全般の収入は、比較的広い範囲に分布しています。最新のフリーランス白書2023(フリーランス協会による調査)によれば、フリーランスの年間所得帯は以下のような割合になっています。
- 200万~400万円未満: 約3割
- 200万円未満: 約2割
- 400万~600万円未満: 約2割
このように年収300万円前後がボリュームゾーンですが、さらに高所得の層も存在します。例えば年収600万円以上のフリーランスも全体の約3割強おり、1000万円以上稼ぐ人も1割前後存在します。
一方で、副業的にフリーランス活動を行う人では年収100万円未満が最多となるなど、収入は働き方によって大きく異なります。
フリーランス協会「フリーランス白書2023」(実態調査報告)
なお、参考までに国税庁「民間給与実態統計調査」によると、日本の会社員(正規雇用)の平均年収は約508万円、非正規雇用では約198万円というデータがあります。フリーランスの所得分布はこの間に広く分散しており、正社員並みの収入を得る人から、非正規社員程度もしくはそれ以下の収入層まで混在している状況です。
日本におけるフリーランスデザイナーの年収
デザイン分野のフリーランスについては、スキルや案件単価によって収入はさらに差があります。日本の調査では、フリーランスデザイナーの収入水準は全体平均よりやや高めとの結果が出ています。求人マッチングサービス「SOKUDAN」に掲載された案件から算出したフリーランスデザイナーの平均年収・時給レポート(2023年)では、以下のような数値が示されました。
- 平均年収:709万円(平均時給3,517円)
- 中央値年収:725万円(中央値時給3,594円)
- 年収600万円以上の割合:69%(800万円以上が39%、1000万円以上も10.4%)
この調査は掲載案件ベースの試算ですが、フリーのデザイナーは約7割が年収600万円超とされ、同時期の一般的なWebデザイナーの平均年収(約470万円)を大きく上回っています。高い専門スキル(例:UI/UXデザイン等)が求められるフリーランス案件では、会社員デザイナーより高収入を得ているケースが多いことを示唆しています。
フリーランスデザイナーの平均年収・時給レポート|SOKUDAN調査レポート
もっとも、デザイナー内でも分野別・働き方次第で収入差は大きいです。フリーランス白書2023でも「クリエイティブ・Web・フォト系」職種は、他の職種(エンジニア系等)に比べ高収入層の割合が低い傾向が示されています。
例えばエンジニア/技術開発系やコンサル系では約8割が年収400万円以上なのに対し、Web・クリエイティブ系では約5割が400万円以上にとどまるとのデータがあります。この違いは職種ごとの単価差や、副業的に携わる人の比率によるものと分析されています。
海外におけるフリーランスの収入分布
アメリカ合衆国のフリーランス収入
米国はフリーランス人口が特に多い国で、2023年には労働力人口の38%にあたる約6,400万人がフリーランスとして働いたと報告されています。これら米国フリーランス労働者の年間総収入は1.27兆ドル(約190兆円)に達し、2014年比で78%も増加しています。これはフリーランス市場の急成長を反映するものです。
米国におけるフリーランスの年収分布は二極化の傾向も見られます。ThriveMyWayの調査によれば、フリーランスの20~30%程度が年収7.5万ドル(約1000万円)以上を稼いでいる一方、全フリーランスの平均年収は約3.9万ドル(約580万円)程度と報告されています。また「従来の仕事より収入が増えた」と感じる人が6割以上いる一方で、「収入が減った」と回答する人も約4割存在するとのデータもあります。つまり高収入を実現する人も多い反面、全体としては中央値~平均値はそれほど高くないことがうかがえます。
さらに米国の職種別データでは、IT系やクリエイティブ系のフリーランス職に高い報酬水準が見られます。例えばフリーランスのWebデザイナーの場合、年収中央値が約7万7200ドル(約1100万円)との報告があります。高度なプログラミングやデザインスキルを持つ人材は年収10万ドル(約1300万円)超えも十分可能であり、主要なフリーランス職種の中でもウェブ開発・デザイン、ソフトウェア開発は高収入上位に位置するとの分析もあります。
ThriveMyWay (Freelance Stats 2024)
ヨーロッパ・その他地域のフリーランス収入
欧州やアジア圏でもフリーランス人口は増加傾向にあり、収入水準は国や地域によって様々です。欧州先進国のフリーランスは米国と同様に高いレートを請求する傾向がありますが、社会保障や税制の違いもあり手取りは国により異なります。
例えばイギリスのフリーランスデザイナーの場合、ある調査では平均年収が約3.5万ポンド前後(約550~600万円)との報告もあります。一方、東欧や南欧ではこれより低い水準になるケースもあり、欧州内でも格差が見られます。
アジアでは、インドやバングラデシュ、東南アジアなど新興国でフリーランス人材が急増しています。世界全体のフリーランス人材のうち約35%以上が欧州に、アジアにはそれ以上の割合が属すると推計されており、特にインドは有数の供給国です。
ただし、新興国のフリーランス平均収入は先進国より低めです。例えばグローバルな決済サービスPayoneerの調査によると、世界平均の時給レートは28ドルですが、地域別に見ると北米>欧州>アジアの順で平均時給に差があることが示唆されています。
物価水準やスキル供給量の差から、同じ仕事でも新興国では低単価となりやすいのが現状です。しかしそれでも、フリーランスという働き方はアジア新興国でも貴重な高収入機会となっており、多くの若年層が参入しています。
Business Wire (Payoneer Global Freelancer Income Report 2022)
業種別・属性別による収入の違い
前述のように、フリーランスの収入は業種による差が大きいです。一般にIT・エンジニアリング、コンサル系は単価が高く、クリエイティブ系(デザイン・ライティング等)や事務サポート系は比較的単価が低い傾向があります。
日本のデータでは、エンジニア系の8割が年収400万円以上なのに対し、クリエイティブ系では5割程度にとどまります。また知的専門職(法律・金融など)は人数は少ないものの高単価を維持しやすい一方、翻訳や写真など競合の多い職種では収入レンジが低めになる傾向があります。
Workship MAGAZINE(フリーランス白書2023抜粋解説)
また、男女や年齢など属性による収入差も指摘されています。グローバル調査では、女性フリーランスの平均収入は男性の84%程度にとどまるとの報告や、特に北米では男女間で時給に大きな開きがあるといったデータがあります。年齢面では、一般に経験のあるミドル~シニア層の方が高収入を得やすく、実際海外では55歳以上のフリーランスは若年層の2倍以上稼ぐとの分析もあります。こうした属性要因も収入分布の多様性に影響を与えています。
What is the average freelance salary around the globe? | Payoneer
過去数年の推移と今後の展望
直近数年間でフリーランスの収入水準は全体として上昇傾向にあります。米国では前述の通り2010年代後半からフリーランス人口と総収入が急増し、2014年からの約10年で市場規模が大きく拡大しました。世界的にも、特に2020年以降のコロナ禍でリモートワークが浸透した結果、需要増に伴いフリーランスの平均報酬も増加しています。Payoneerの国際調査では2020年から2022年にかけて世界平均時給が21ドルから28ドルへと約40%上昇したことが確認されています。
Business Wire (Payoneer Global Freelancer Income Report 2022)
日本でもフリーランス白書の結果から、コロナ禍で一時案件減や収入減少を経験した人がいるものの、2023年時点では回復傾向が見られます。
今後の展望として、フリーランス市場は国内外でさらに拡大すると予想されます。米国では2030年までに労働人口の過半数がフリーランス化するとの予測もあり、アジアなどでもプラットフォーム経由の仕事機会が増えています。収入面でも、高スキル人材にとっては引き続き高収入を得られるチャンスが広がる一方、競争激化により平均単価は抑えられる可能性も指摘されています。
各種統計データを総合すると、フリーランスの年収は「玉石混交」であり、経験・スキル・地域・業種によって天と地ほど差があるのが実情です。客観的データを基に市場動向を把握し、自身のスキルアップや適切なマーケティングによって、より有利なレンジへ収入を伸ばしていくことが求められるでしょう。
— 参考資料(出典)
- フリーランス協会「フリーランス白書2023」(実態調査報告) – https://blog.freelance-jp.org/wp-content/uploads/2023/03/FreelanceSurvey2023.pdf
- Workship MAGAZINE(フリーランス白書2023抜粋解説) – https://goworkship.com/magazine/freelance_hakusyo2021/
- PR TIMES (CAMELORS株式会社「SOKUDAN」調査レポート) – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000045678.html
- GlobeNewswire (Upworkプレスリリース) – https://www.globenewswire.com/news-release/2023/12/12/2794593/0/en/Upwork-Study-Finds-64-Million-Americans-Freelanced-in-2023-Adding-1-27-Trillion-to-U-S-Economy.html
- Business Wire (Payoneer Global Freelancer Income Report 2022) – https://www.businesswire.com/news/home/20220131005014/en/Payoneer-Study-Finds-Freelance-Workers-Benefited-from-Surge-in-Demand-and-Increased-Pay-Amidst-Ongoing-Pandemic
- ThriveMyWay (Freelance Stats 2024) – https://thrivemyway.com/freelance-stats/
- 99Firms (Freelance Statistics 2023) – https://99firms.com/blog/freelance-statistics/